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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第4章 マネー! マネー! マネー!
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5.丑三つ時の狂乱⑤ 妥当な条件だったしな。

◇ ◇ ◇


 簡易ジムに戻ってみると、意外にも誰もいなかった。


「あれ? テスターたちは?」


 部屋の電気をつけ、室内を見渡すリュート。やはり誰もいない。


「絶望幼女はどうなったのかしら。声は聞こえないけど……」

「そのふざけた呼称がこの部屋で起きた怪現象を指しているのなら、テスターらがとっくに消したようだぞ」


 セラの疑問に答える形でセシルが言う。

 その口ぶりから想像はついたが、リュートは念のために確認した。


「テスターとツクバに会ったのか?」

「ああ。彼らには、騒動の後始末をするよう言いつけておいた」

「後始末?」

「どうせどこかの愚か者が、廊下を汚しているだろうからな」

「そうやっていちいち皮肉ってると、最後にはぐちぐち小うるさいだけのじいさんになっちまうぜ」

「じいさんになれぬまま終わる者もいるのだ。そうなれるだけで(ぎょう)(こう)だろう」

「そんなことどうでもいいわ。早く本題に入りましょうよ」


 セラがぴしゃりと告げて、セシルをにらみつける。


「なんだって学長がここにいるわけ?」

「君は自分の立場が分かっていないようだな」


 冷厳としたまなざしで、セラの視線を受け止めるセシル。


「かつて反逆の意思を見せた者が、深夜にこそこそ部屋を抜け出したのなら……事実確認はすべきだろう?」

「あんた、私を見張って……!」

「そうしない理由もないだろう。安心しなさい。プライバシーを侵害するような場所に、監視カメラは仕掛けていない」


 セラは明らかに安心しかねる表情を浮かべていたが、リュートは話を進めるために先を促した。


「じゃああんたは本当に、怪談話とはなんの関係もないんだな?」

「そうとも言えるし、違うとも言える」

「あ? 意味分かんねーよ。はっきり言え」

「口が悪い」


 セシルは短く言うと、リュートのすねを蹴りつけた。


「……っ⁉」

「セラ。君の身体(からだ)に押し込まれている、()(しん)の魂……その動向が以前から気になっていてね」

「……ってことはやっぱり、あれは()(しん)の魂なの?」


 かがみ込んでもだえるリュートの代わりに、セラが質問を引き継ぐ。


「魂そのものというより、()(しん)の力が漏れいでている……といったところか。だから()(けん)で斬ることができる」

「漏れいでてって……大丈夫なのかそれ?」


 立ち上がりながらもふらついている――ように見せかけて、リュートはセシルのすねに足を突き出した。

 しかしセシルはさっとかわし、持て余していた手で拳を握る。


「ああ、大した害はない。むしろ体外に排出した方が、彼女にとってはいいだろう。恐らくはそろそろ――」


 セシルの言葉を遮り、扉がガチャリと(ひら)く。


「あー疲れた。リューってば、豪快に廊下汚すんだから。なーんで、廊下に灰なんてまき散らすかなぁ?」

「先輩があいつに渡したんですよね」

「そりゃそうだけど――」


 会話が途絶えた。

 半歩引いて迎え撃つ体勢のセシルに、攻撃態勢全開のリュート。どう控え目に見ても不穏な空気に、ツクバが戸惑いの声を上げる。


「ええっと……何事?」


 問われ、リュートは腰を落としたままセシルを見やった。距離を挟んで(たい)()するセシルが、攻撃のそぶりを見せないことを確認すると――


「いえ別に」


 構えを解いて短く答える。

 まだ釈然としない様子のツクバとは対照的に、場慣れしたテスターは(かけ)()も動じていない。彼はセシルの元へと歩み寄ると、最敬礼をした。


「後片づけの方、終わりました」

「ご苦労」


 リュートも輪の中へと入り、ツクバに頭を下げる。


「すみません。なんか掃除させてしまったみたいで――テスターも、悪い」

「いいわよ別に」

「妥当な条件だったしな」

「条件?」


 (ひょう)(ひょう)と応えるふたりを見て、リュートはいぶかしんだ。


「そ。後片づけでおとがめなし」


 親指を立てるツクバにセラが問いかける。


「おとがめって――」

「騒ぎをいたずらに大きくした件と、深夜に女子寮に侵入した件だ」


 セシルが先んじて答えを吐き出し、


「さて、君たちにはどういった処罰を下したものか」


 困ったものだと言いながら、口調は実に楽しげだ。

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