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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第4章 マネー! マネー! マネー!
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5.丑三つ時の狂乱② 僕を馬鹿にするやつは許さない。

「分かってるわよ。反省してるから、とにかく今は『リアム』を追いましょ!」

「そうやってうやむやに――」

「ほら早く! 消えちゃったら追うこともできなくなるわよ!」

「――ぁあくそ、分かったよ!」


 セラに()かされ再び駆けだす。新たに得た情報を基に、リュートは思案した。


(つまりはなんだ? あれは()(しん)に絡んだ、なんらかの現象なのか?)


 ()(しん)をその身に宿したことはないが、それ以外のものと身体(からだ)を共有した経験はある。

 違和感があることそれ自体は大して問題ではない。むしろ思考が一体化していないことの(あか)しとなる。

 だが封じ込まれていた魂が動きを見せたというのが、気になるところだ。


(大丈夫なのか? 誰かに相談した方が……)


 考えながら真っ先に思い浮かんだ顔は、黒髪の少女だった。ただし本来の人格ではなく、居候のくせにたけだけしい、(あく)(らつ)な性格がにじみ出ている笑みを浮かべる方だ。


(気は進まねーが……今度聞いてみるか)

「にしてもアレは、なんであんな姿なんだ? やたら半端だろ」


 2階の廊下を進みながら、あくまで(ひと)(がた)を『リアム』とは呼ばずに、リュートはセラに質問した。セラから出てきたということは、あの造形は多分に彼女の影響を受けているということになるが。

 セラが小首をかしげて答えてくる。


「私の記憶をたどった……のかしら? 家族とはいえ小さい頃の記憶なんて曖昧だし、詳しい顔立ちなんて思い描けないもの。それがそのまま具現化したんじゃない?」

「ならイカ墨(うん)(ぬん)はなんなんだ? 昔の俺の授業風景なんて、記憶どころか知ってもないだろ。どこからイカ墨なんてふざけた()()()が出てくるんだよ」

「セルウィリアとしての記憶が戻った時、事故死した『リアム』に関する(うわさ)を集めたのよ。確かその中に、ツクバ先輩が話してたのと同じ(うわさ)があったはず」

「それであんなのが出来上がったってわけか……つかお前もよくやるな。セシル(あいつ)に勘づかれるリスクまで冒して、そんな()(まつ)(うわさ)集めなんて」

「神に反逆しようっていうんだもの。そりゃ()(まつ)なとこまで必死に情報集めるわよ」


 勤勉さ故の論理ということなのか、セラが当然とばかりに肩をすくめる。


「そんなことよりお兄ちゃん、『リアム』のことだけど。あれがもし、()(しん)由来のものであるなら――」

「ああ」


 リュートはうなずき、腰へと手をやった。


緋剣(これ)で斬ることができるかもしれない」


 剣柄(たかみ)の感触を確かめつつ、前方へと目を凝らす。ゆらゆらと浮遊する、小さな(たい)()がそこにはあった。

 (ひと)(がた)は1階にいた時と同様、適当に廊下を進んでいるようだった。


「おいイカ墨小僧!」


 2階は訓練生たちの寮室が並ぶ。リュートは小声で――やや複雑な気分とともに――(ひと)(がた)を挑発した。

 自分を侮辱する言葉を聞き取った(ひと)(がた)は、ゆらりとこちらを振り向いた。


「顔がっ……」


 セラの言う通り、(ひと)(がた)は顔を形成しつつあった。

 切れ込みのようであった口には唇の凹凸がはっきりと現れ――そういえばさっき、犬歯も生えていた気がする――、鼻筋が浮かんできた。二対のくぼみからは、子どもらしい丸い目が生まれ出ている。

 それは見ようによっては確かに、かつての自分だった。が、


(ひどくアンバランスだな。今の俺の顔を、無理やり子どもに落とし込んだみたいな)


 実際、当たらずとも似たようなものだろう。セラの記憶から引っ張ってきている限り。

 (ひと)(がた)は出来たての目に早速怒りの感情をにじませ、拳を握って宣言してきた。


「許さない。僕を馬鹿にするやつは許さない」

「そうやって気ばっか張ってるから、大事なことが見えなくなるんだ」


 リュートは()(けん)を引き抜き加速した。(ひと)(がた)がイカ墨を吐いてくる。


「せめてその下品な攻撃スタイルはやめろっての!」


 カートリッジを剣柄(たかみ)に挿し込みながら床を踏み切り、斜め前方へと跳躍するリュート。イカ墨をかわした直後には、眼前に壁が迫っている。

 リュートは足を突き出し、壁を蹴って方向を変えた。(ひと)(がた)の背後に背中合わせで降り立つと、振り向きざまに()(けん)()いだ。

 手応えはしっかりとあり、(ひと)(がた)の背中がぱっくりと裂ける。()(しん)由来であるからか、感触まで人体よりも()(しん)に近い。しかし出血しない()(しん)と違って、引き裂かれた肉から血が勢いよく噴き出した。

 いや、血ではない。血とは異なる強烈な生臭さを発揮する、黒い液体だった。


(骨の髄までイカ墨かよ⁉)


 しかも量が尋常ではない。


「うぶっ⁉」


 顔に集中砲火を浴び、目が潰れる。体勢を立て直そうと引いた足は、床を浸したイカ墨で靴底を滑らせた。


「お兄ちゃんっ⁉」


 セラの声に応える余裕もなく、リュートは床へと尻もちをつく。


「死ね!」


 染みる目をなんとか(ひら)くと、リュートにまたがってなにかをふりかぶる(ひと)(がた)の姿。(ひと)(がた)が手にしていたのは、先のとがった黒い棒。流れからすると絶対にイカ墨を固めたものだが、それで死ぬのはなんというか己の尊厳にかけて、なにがなんでも絶対に死んでも嫌だった。


「くそっ……」


 (かろ)うじて形状を維持していた()(けん)に力を込めた時――リュートの意思を無視して突然別の場所に力が加わった。

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