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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第4章 マネー! マネー! マネー!
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3.故郷の幻影⑤ さすが女神様の神殿だ。

 鳴き声ではなく、確かに言葉を発した。

 それを確認したところで、リュートは屋内中央へと身を投げ出した。

 またもや壁の崩落する音。


(返せ? 我らの? 命?)


 聞き取れた単語を(はん)(すう)するも、全く意味が分からない。()(しん)が話したということだけでも驚きだった。


(回帰形態だと知能や心も、かつて()ったものへと近づくのか?)


 床を転がっている時間にそこまでをまとめると、リュートは足裏で強く床を蹴った。その勢いのまま反対側の壁へと向かう。

 天井からパラパラと石が落ち始めているが、あと一押しは欲しいところだ。

 ()(しん)を引きつけては壁に激突させを繰り返し、


(よっしゃ撤退っ!)


 歯を食いしばって出口へと急ぐ。

 天井から落ちてくる石をあわやというところで()けながら、リュートは大きく足を踏み切った。

 出口に飛び込みながら首を後ろにひねると、こちらへ爪を伸ばしている()(しん)が目に入った。しかしそれも一瞬のことで、()(しん)はすぐに上から落ちてきた天井に潰され、その姿は見えなくなった――


◇ ◇ ◇


 荒廃した沈黙の地に、またひとつ破壊の歴史が加わった。


「あああああ……」


 ぺたんと地面にへたり込むタカヤの隣で、リュートは完全無欠に崩壊した神殿を、まあそれなりにむなしい思いで眺めていた。

 あの崩落の中では、さすがに《()》も無事ではないだろう。またどこかで再生されるだろうが、そのときにはリュートたちは箱庭世界に戻っているはずだ。

 とはいえ別口の()(しん)がやって来る可能性は十分にある。

 早いところ帰還ポイントに戻って装置を外そうと考えていると、タカヤがバッと立ち上がった。怒るほどには立ち直ったらしく、両拳を握ってリュートへと詰め寄ってくる。


「なんてことするんですかリュート先輩! 大事な(しん)(ぼく)の遺産ですよ⁉ それも女神様の神殿っ!」

「ああ、さすが女神様の神殿だ。御利益あったぜ」

「いえそうじゃなくて!」

「あれは老朽化が進んでいた。いつ崩れてもおかしくなかった。だったら今崩しても構わないだろ? どうせ崩れるんだから。終わる前に終わらせれば悲しくない」

「そんな前向きな終末論かましたって無駄ですよ! このことは報告させてもらいま――」


 リュートはタカヤの後ろに回り込むと、がっしと肩に腕を回した。ヘッドギアがぶつからない程度に顔を寄せて指を立てる。


「さて交渉タイムだ。セラの好きな本を教えてやる」

「は?」

「俺はお前の邪魔も応援もしない。ただあいつの趣味を教えるだけだ。その代わり神殿の件、積極的には口外しないでほしい」


 つまりは黙ってろと同義だが。

 タカヤは(きょ)を突かれた顔をした後、明らかに焦って挙動をおかしくし始めた。


「な、なんの話ですかっ。俺は別に……?」

「聞きたくないか? ああ見えてセラは、自分が認めた者以外には容赦ないぜ。下手なこと言ったら急転直下に侮蔑対象だ。犬畜生と蔑まれて泣き崩れたベンの姿を、俺は今でも忘れない」

「…………」

「どうする?」


 押し黙るタカヤは葛藤しているようだった。なにか大事な物を心の(はかり)にかけている。思案し、殉教者のような苦渋を示し、


「……ま、まあ助けてもらった形にはなるわけですし、ね」


 そして俗物へと()ちた。


「よっし取引成立だな」


 ここに来てようやくうまく事が運んだと、リュートはにっと笑みを浮かべた。


◇ ◇ ◇

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