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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第4章 マネー! マネー! マネー!
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3.故郷の幻影② 風すら吹かない沈黙の地

◇ ◇ ◇


 雲があるわけでもないのに、空は暗く閉ざされている。踏みしめる赤地は固く、なんの命も芽吹かせていない。

 じっくり観察する機会を得たので眺めてみれば、感慨深さとはほど遠い景色がそこにはあった。

 風すら吹かない沈黙の地。


「ここが元始世界……俺たちの、故郷?」


 リュートは(ぼう)(ぜん)とつぶやいた。

 なにか明確な世界を(えが)いていたわけでも、大きな期待を(いだ)いていたわけでもない。ただ、ここまで荒廃しているとも思っていなかった。

 しかし、それを見るためにここに来たわけではない。


(タカヤはどこだっ?)


 リュートはぐるりと辺りを見回した。

 確か彼は遠くにあるなにかに向かって、坂道(?)を上っていたはずだ。


(! あれか!)


 右方向に坂道と、それを越えた先にのぞく、建物らしき物を見つける。そして、坂道を進む人影も。

 後を追おうと足を踏み出しかけ、()める。

 リュートは右の胸ポケットからハンカチを取り出し、地面へと投げ置いた。


(たぶん無駄だろうけど)


 身体(からだ)を巡る電流の影響を受けているのか、このハンカチも今は元始世界に存在している。が、そこから離れれば箱庭世界に存在が戻るだろう。

 それでも目印として、置いておいて損はない。

 この地点の座標を頭にたたき込み、リュートはタカヤの後を追った。


「タカヤ! おいタカヤっ!」


 音のない世界であることが幸いした。遠くからでも、タカヤはリュートの呼びかけに気づいたようだ。立ち止まってこちらを振り向いている。


「そこで()まれ! そっち行くから!」


 指で足元を指すジェスチャーをしながら、ポケットからスマートフォンを取り出すリュート。短縮ダイヤルでセラへと電話をかける。

 これもまたハンカチと同じで、あわよくばという期待ではあったが……


(……やっぱ通じねーか)


 鳴らない電話に見切りをつけ、リュートはスマートフォンをしまい込んだ。

 この分だと、フリストのリモコン操作も届かないだろう。それに関しては装置を外せばなんとでもなるから、さしたる問題はないだろうが。

 ヘッドギアに重心を揺さぶられながら、タカヤのもとまでたどり着くと。


「リュート先輩? いらしてたんですね」


 心配して追いかけて、返って来たのはこの言葉。


「なに勝手に歩き回ってんだよ! 普通その場で待機だろ!」

「すみません……でもここ元始世界なんですよ?」


 叱るリュートに反省の色は見せつつも、タカヤは譲れぬものがあるとばかりに拳を握った。


「俺たち(しん)(ぼく)の故郷、女神様が本来おられるべき世界。それを(かい)()()れるチャンス、逃せるわけないです! それにほら、見てください!」


 タカヤがびしっと指さした先には、石造りの建物があった。

 まだ距離があるのではっきりとは分からないが、だいぶ老朽化が進んでいるようだ。壁の周囲は多数の石柱で囲われており、入り口と思われる場所には(けん)(ろう)そうな石扉がはまっていた。

 女神教書の表紙絵になっている、飽きるほど見たデザインだ。

 タカヤはぐぐっと詰め寄ってきて、


「あれは恐らく女神様の神殿です。絵画でしか見ることのできなかった神殿が、今目の前にあるんです! 黙って待機なんてできるはずがありません!」

「分かった! 分かったから! せめて装備は身に着けろ!」


 リュートは暴発する情熱から身を守るように、持ってきた荷物を突き出した。


(これだから女神狂いのやつらは!)


 口には到底出せぬ愚痴を、内心で吐き出す。

 タカヤはいまだ興奮に目を輝かせていたが、荷物を受け取ると素直に身に着け始めた。

 とがった腕輪が袖口に引っかかり難儀しているようであったが、なんとか強引に腕を通した。その後剣帯と()(けん)を装備し、聞いてくる。


「それで先輩。どうするんですか?」

「どうするもなにも、さっさと帰るって選択肢しかないだろ」


 即答して歩きだす。

 なんとなく分かってはいたが、タカヤは続いてこなかった。

 振り返ると、子犬のような目。

 リュートはついと視線をそらした。

 しばしの間を置いて目を向けると……やっぱりそこには子犬の目。


「……あそこ見て回ったら、とっとと帰る。いいな?」

「はい!」


 純粋な(おも)いほど厄介なものはない。

 リュートはこめかみを押さえながら、そう痛感した。


◇ ◇ ◇

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