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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第4章 マネー! マネー! マネー!
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2.至極まっとうで謙虚確実な報酬の取得手段すなわち有償奉仕⑤ なにを信仰しようと自由だろ。

「リュート様には先ほどお話ししましたけど、タカヤさんは立派な志をもった模範生なんですよ」

「そんな、模範生だなんて」


 セラの張りぼての笑顔に気づかず、まんざらでもない顔をするタカヤ。

 なんだか気の毒に思いながら彼を見ていると、こちらの含みには気づいたらしいタカヤが、じっと見返してきた。


「気に食わないですか? 俺の信仰姿勢が」

「別に。誰がどれだけなにを信仰しようと自由だろ。強制するなんて馬鹿げてる」

「俺が信心深いのはっ」


 感情のままに吐き出しかけ、タカヤが慌てて口をつぐむ。地球人への秘匿事項である、女神について()れかけでもしたのだろう。

 実は明美に女神が同化しており、かつ明美もそれを自覚していることを、逆に秘匿されているとはつゆほどにも思うまい。

 タカヤは明美を気にするようにちら見すると、リュートに向かって続きを叫んだ。


「それが(わたり)(びと)として当然()るべき姿だからです!」

「だから、そう思ってるならそれを貫けばいい。俺には関係ない」


 タカヤの熱を興味なく受け流し、アスレチックに向けて歩きだすと。

 セラと明美が続くよりも早く、タカヤがすざざっと、リュートの前へと滑り出た。


「リュート先輩、勝負してください!」

「……は?」


 突然の申し出に戸惑うリュート。

 タカヤはその機を逃さず畳みかけてきた。


「セラ先輩から聞きました。リュート先輩は内に秘めた信仰心を隠すため、仕方なくそういう態度を取っているのだと……ですが!」


 グッと拳を握り、瞳に信念の炎をともす。


「俺にはどうしても見過ごすことができないんです! だから俺と勝負して、俺が勝ったらその不遜な信仰態度、改めてください!」


 リュートは疲れたまなざしでセラを見据えた。


「お前さあ……」

「リュート様をフォローしようと思って」


 セラが人さし指を顎に当て、うふふと横へ目をそらす。

 タカヤは続ける。


「あとこれは後輩としての進言ですが、寮室の壁に延々と語りかけるのはやめた方がいいと思います!」


 リュートはセラを振り返った。


「お前さあ!」

「フォローしようと思って」

「明確に潰しにきてんだろ」


 ぶつくさと文句を言うと、リュートは仕方なくタカヤに向き直った。


「俺が君と勝負する理由がないだろ。今は他事で手一杯なんだよ、悪いけど」

「いいんですか?」


 聞いてくるタカヤは、確信の笑みを浮かべていた。

 だから代わりにという訳ではないが、リュートは疑念の表情を浮かべた。


「なにがだ?」

「俺はこの時間帯の、特1利用申請をしています。ご存じですよね? 整備担当の仕事が疎漏であったと、申請台帳に残せばどうなるか」


 それはすなわち、報酬が支払われない恐れがあるということだ。

 リュートは、すっと目を細めた。


「つまりは俺の稼ぎの邪魔をするのか?」

「そんな眼光鋭くするほどの額でもないですけどね」

「天城君……よければ貸そうか? お金」

「金持ちは黙っててくれないか」


 話の腰を折るセラと明美に、目を閉じてそう告げると。

 リュートは決断して目を()けた。


「いいぜ、勝負しよう。その代わり、俺が勝ったら奉仕活動手伝えよな。勝負の分だけ作業時間が圧迫されるんだから」


 タカヤが、にっと笑みを浮かべる。


「当然です」


 こうして知り合って間もない後輩と、益体もない勝負をすることが決まった。


◇ ◇ ◇

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