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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第4章 マネー! マネー! マネー!
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2.至極まっとうで謙虚確実な報酬の取得手段すなわち有償奉仕③ この馬鹿とクラスメートなんだって?

◇ ◇ ◇


 須藤(あけ)()の訓練校への招待は、少し前から上っていた話だった。

 (たすき)()高校にいる間はリュートたちがそばに付けるが、休日となるとそうもいかない。

 無論、明美の事情を知る数少ない守護騎士(ガーディアン)が、彼女の家の近くで昼夜交代で張り込んではいる。しかしそれではやはり心もとない。

 せめて土日のうち少しの間だけでも、(しん)(ぼく)の本拠地――つまりはここ世界守衛機関(WGO)本部にいてほしいというのが、セシルの主張だった。


 そんなセシルの提案に、明美本人はふたつ返事をしてくれた。両親への説明と許諾の確認――種族間交流への協力依頼、という体で――も無事に終え、ここに至るという訳だ。

 守衛所での手荷物検査を済ませて裏口から外に出ると、リュートは予定の確認をしようと明美を振り返った。

 目が合ったことで機を得た――と思ったのかどうかは知らないが、胸に『Visitor』のプレートを付けた明美が、そういえばと口にする。


「今日はアルベルト君いないんだね」

「テスターは(たすき)()高校にいる。一応な」


 明美がその場にいないのであれば、(たすき)()高校の(げん)(しゅつ)レベルは通常値の域を出ない。

 が、当然その事実は公表できない。明かしてしまえば、そう判断した理由の提示まで求められるのが必至だからだ。

 となると、書類の上で交流学生兼専属守護騎士(ガーディアン)をうたっている以上、リュートたちが土日の(たすき)()高校をまるっきり放置するわけにもいかない。

 時には正規の守護騎士(ガーディアン)の協力も得て、リュートとテスターが交代で(しょう)(かい)の任に就くのが、ここ最近の常だった。


「休みの日も? 大変だね」


 気遣ってくれる明美に、セラがあきれたように息をつく。


「同じく休みの日にここに来てくれてる須藤さんも、なかなか大変だと思いますよ?」

「私はどうせ、本を読んだりして家で過ごしてるだけだから。送迎もしてもらえるし、実は結構楽しみにしてたんだよね。ふたりの学校が見学できること」


 わくわくと目を光らせる明美。そこへばたばたと乱入者が現れた。


「あ、いたいたー。あなたでしょ、見学に来た地球人学生って」

「ほら言っただろ、そろそろ来るって」

「君、この馬鹿とクラスメートなんだって?」


 ()()(うま)根性丸出しで、3人の少年少女が話しかけてくる。(みな)、リュートの同期訓練生だ。


「どういう流れで見学になったの? 種族間交流の一環だって聞いたけど」

「もしかしてこいつがあまりに勉強できなくて、わざわざ教えに出向いてきてくれたとか?」

「あ、いえ、天城君は別に……」

「ごめんなー。こいつが馬鹿なだけで、(わたり)(びと)のレベルはちゃんとしてるから。誤解しないでくれよな」

「おい……」


 好き放題に明美に吹き込む同期の肩口をつかみ、リュートは()みついた。


「俺だってそれなりの成績は取ってんだぞ⁉」

「そうなの? 信じられない」

「あー、地球人の学校だからって、頑張って()()張ってんだな」

「俺の()()じゃねえ! いい成績とれって命令されてんだよ!」


 リュートは後方にそびえる世界守衛機関(WGO)本部棟を、振り向きもせずびしっと指さした。


「まあなんでもいいけどね」

「俺たち課題やんなきゃいけないんだ」

「そういう訳で忙しいから、もう行くな」

「二度と来んな!」


 去っていく背中に怒声を浴びせると、明美が「えっと……」と前置きして聞いてきた。


「お友達?」

「違う。敵だ」


 ふてた目で断言するリュート。


「はいはい、子どもじみたすね方はいいからお兄ちゃん。早く須藤さんを案内してあげましょ。いつまでここに立たせておくつもり?」


 ぱんぱんと手をたたいて()かしてくるセラに、リュートははっと思い出した。


「ああそうか、悪い須藤」

「ううん大丈夫。それにしても、(わたり)(びと)の学校ってすごく広いんだねえ。今日だけじゃ絶対見て回れないよ」


 手を額に付け、見通すようにぐるりと回る明美。


世界守衛機関(WGO)本部と守護騎士(ガーディアン)駐屯地も兼ねてるからな。他の訓練校はもう少し小規模なはずだぜ」

「天城君たちはここに住んでるんだよね?」

「ああ。そこにでっかい建物があるだろ? あれが世界守衛機関(WGO)本部棟で、その奥に俺たちの寮があるんだ」


 リュートは遠方に(かい)()()える建物群を指さした。


「えと、本部棟の、隣にある建物?」

「いえそれは職員宿舎です」


 リュートと明美の間に割って入るように、セラ。


「職員宿舎の後方に男子寮が連なっていて、その隣が女子寮になっています。ここからじゃほとんど見えませんけどね」

「え? え?」

「案内図見た方が早いか」


 疑問符だけを増やしていく明美を見て、リュートは身体(からだ)を反転させた。

 守衛所の壁に沿って正面側へと回り込むと、入り口横の案内図を拳でこんこんとたたく。


「ま、これが俺たちの訓練校の全てだな」


 リュートについて来た明美は、示されるがままに案内図へと目をやった。


「すごーい。体育館や運動場がいっぱいあるんだ」


 感心の声を上げる彼女は、一通り案内図を眺めた後、「ん?」と眉をひそめた。


「この()()第一運動場っていうのは? こっちの第1運動場とかとは違うの?」

「へえ、めざといですね」


 セラがどうでもいいという口調の中に、多少の感心をにじませて答える。

 リュートは流れを受けて、あくまで自然の成り行きとして提案した。


「訓練校の見学としてはちょうどいい設備かもな。すぐ近くだし行ってみるか?」


 実をいえば、狙っていた流れではあった。


◇ ◇ ◇

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