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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第4章 マネー! マネー! マネー!
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1.極めて健全かつ堅実身近な資金調達方法すなわち学内バイト⑥ 残念だよリュート君。

「ツクバ先輩っ?」

(こう)(がい)男に常識は通じないわ!」


 リュートと()(しん)との間に分け入ってきたツクバが、敏活な動作で()(けん)を振るう。

 加勢しようにもカートリッジがないリュートの(しゅん)(じゅん)を察したのか、彼女は鋭く後を続けた。


「武器がないなら下がってなさい! これくらいひとりでやれる!」


 宣言通りツクバの排除は完璧だった。舞うように動いて鬼を翻弄し、力強く巨体をえぐる。

 彼女が数太刀も浴びせると、鬼はこの世界から姿を消した。


(結構すごいんだな、彼女……)


 目の前で模範的な排除を見せられ、リュートは舌を巻いていた。いつぞやの模擬戦トーナメントで、決勝まで残ってこなかったのが不思議なくらいだ。もしかしたら、元々参加していなかったのかもしれない。

 と、()(けん)を収めたツクバが、こちらにつかつかと歩み寄ってくる。


「で、どーいうことリュー。なんで君が、芳香剤なんかと一緒にいるわけ?」


 不愉快そうに顔をしかめるツクバを見返しながら、リュートは必死に頭を巡らせた。彼女のギジケンへの対応を考えるに、馬鹿正直に話すのは得策ではない。


「これはその――」

「リュート君、僕が説明しよう。変に誤解されるとこじれるからね」


 こちらの肩をガシッとつかみ、フリストが前に出る。


「リュート君は、僕の助手を務めてくれてるんだ。疑似質量応用科学研究会の理念に熱く賛同してくれてね」

「いえ金のためです」

「ゆくゆくは入会し、ギジケンの副会長に就任する予定だ」

「そんな未来いつまで()っても来ないですよ」

「分かるか? 会員のいないどこぞの低俗研究会とは違うんだよ」

「実はこじらせる気満々ですよね先輩」


 白い目でフリストを見上げると、リュートは訂正のため再度口を(ひら)いた。

 が、ツクバは(はな)から、フリストの話を信じていなかったらしい。ふんと鼻を鳴らし、


「なーに(たわ)(ごと)言ってんのよ。リューは(ざん)(こん)研究会の副会長よ」

「なにっ⁉ そうなのかリュート君⁉」


 恐らくはこの日一番の仰天顔で、フリストがリュートからぱっと飛びのく。


「え? いや、えーと……」

「どうなんだ⁉」

「まあ、はい……そうらしいです。一応」

「ほうらね、見なさい」


 ご機嫌取りのリュートの回答に、ツクバはどうだと胸を張り、


「それでさリュー」


 フリストが退(しりぞ)いた分を埋めるように、こちらの肩に肘を置いてくる。


(ざん)(こん)研究会の一員が、ギジケンなんかの助手をしていいと本気で思ってんの?」

「えーと……駄目? でした、かね……?」

「危うく最終封殺兵器が発動するところよ」


 一瞬据わったトーンで答えてから、嘆息するツクバ。


「まったく、しょうがないわね……仕方ないから今回は見逃したげる。でもまた、私の実験にも付き合ってもらうからね」

「ありがとうござ――へ?」

「詳細は後で。今日の午後5時、(ざん)(こん)研究会室に来て。いーわね?」

「え? や、その、えと」

「じゃ」


 戸惑うリュートに目もくれずに短く告げて、ツクバは去っていった。


(……また実験かよ。面倒くせえなぁ……)


 自然とため息が漏れる。

 握ったままだった()(けん)を収め、リュートは先ほど投げ捨てた装置を拾い集めた。


「フリスト先輩。取りあえずクラブ棟に戻りますか?……先輩?」


 呼びかけると、長いこと(ぼう)(ぜん)としていたフリストが、はっと目の焦点を取り戻した。こちらから装置と()(けん)をひったくると、警戒心をむき出しに、じりじりと後退する。


「残念だよリュート君」

「?」

「君が(ざん)(こん)研究会の一員だったなんて……とんでもない裏切りだ」


 手のひらを額に当て、悲劇のポーズを取る。


「なんて仕打ちだ。丹念に築き上げてきた僕らの信頼関係を、君は一瞬にして打ち砕いた」

「今日が初対面だし、そんな関係築ける兆しすらなかったじゃないですか」

「言い訳は見苦しいよ(くず)()君」

「リュートですけど」

「本当に残念だ。薄汚い裏切り者には、謝礼なんて出せない」

「え?」


 予想外の展開に、リュートは目をしばたたかせた。


「さて、僕はもう部屋に戻るよ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! やることやったんだし謝礼はくださいっ!」

「触るな金の亡者」


 慌てて伸ばした手を、フリストが冷たく打ち払う。


「さようなら(くず)()君。次に会うとき君は敵だ」


 なにやら特大級の覚悟を決めて、クラブ棟に戻っていくフリスト。

 あとにはリュートひとりだけが残った。風が運動場の砂を舞い上げる。

 勝手に約束を取りつけられ、学内バイトの謝礼はもらえず。おまけに身体(からだ)はまだ重い。


「……いや、ひどくね?」


 当然ながら、答えなんてどこからも返ってこなかった。


◇ ◇ ◇

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