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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
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4.終息する変事⑩ バレバレって感じ。

◇ ◇ ◇


 (わたり)(びと)たちが片づけを始めると、その場には(りん)と銀貨だけが取り残された。ほぼふたりきりのような状態で銀貨と向き合う形となり、身動きできなくなる。

 銀貨はあぐらをかいて(りん)の前に座り込んでおきながら、なにも言わない。

 もしかして世界が終わるまでこのままなんじゃないかと、(りん)が馬鹿げた妄想にとらわれかけた頃。


「……許すわけじゃ、ない」


 固い声で銀貨が告げた。


「でも謝ったのは、ちゃんと聞こえたから」


 それっきり、また口を閉ざす。

 たぶん今度は自分の番だ。

 そう思ったわけではないけれど、銀貨が意を決したことで、(りん)も次を提示できた。


「お金」

「え?」

「あんたから取ったお金。残ってる、全部。使ってないから」


 だからどうするとまでは言わなかった。うまく言えなかった。

 伝えるだけなのに、どうして言葉は難しいんだろう。

 銀貨は追及してこなかった。代わりに、別のことを求めてきた。


「須藤さんにも謝ってほしい。僕が言ったからじゃなくて。角崎がそう決められたなら、謝ってほしい」


 必死な物言いに目を向けると、真剣なまなざしとかち合った。


「……考えとく」


 一応答えて、目をそらす。

 叫び声が聞こえたのは、この時だった。


「な、なんだっ?」


 銀貨が目を丸くして、声のした方を向く。

 この声は黒髪――いや、今は変に気取った金髪か――の(わたり)(びと)だ。塔屋の入り口の方でわいわいやっているのは聞こえていたが、なにかあったらしい。どうでもいいが。


(……なんかめっちゃ痛そうだけど)


 どのくらいかというと、(りん)も思わず「なんかかわいそうかな」と思ってしまうような、すごい悲鳴だった。どうでもいいが。


「みんな戻るみたい。僕ももう行くよ」

「行けば」


 立ち上がる銀貨に、(りん)は素っ気なく返した。

 宣言通り銀貨が立ち去り、恐らくはいけ好かない(わたり)(びと)も立ち去り。

 壁に背を預けて、ぼーっと空を眺めていると、ひょいと顔が割り込んできた。


「ひゃっ⁉」


 いることは知っていたが、まさか近寄って――しかもかなりの至近距離まで――くるとは思わず、(りん)はびくりと肩を振るわせた。

 (とう)(はつ)の少年はそんな(りん)の反応も意に介さず、あっさりとした調子で言ってきた。


「角崎。俺もここの片づけ終わったし、戻ろうと思うんだけど。君はどうする? 保健室一緒に行くか?」

「いい。私はまだここにいる」


 減らず口をたたいたというより、単なる反射で否定を返す。


「そっか。じゃ、俺行くから」


 告げて背を向ける少年に、


「ま、待ちなさいよっ」


 (りん)は慌てて声をかけた。聞きそびれていたことを聞くために、立ち上がる。


「あの時、街で。なんで私を助けたのよ?」

「街……?」


 振り向いた(わたり)(びと)は、一瞬いぶかしげに眉をひそめた後、「ああ!」と思い至ったように声を上げた。


「あの時君、(たすき)()高校の制服着てただろ? 編入される身としては、困ってる仲間を見過ごせないからな。それに」


 言葉を区切ると、少年は隠し事を暴くような、楽しそうな目で聞いてきた。


「角崎さ、そのちょっと前に、ペットショップにいなかったか?」

「え? たぶんいた、けど……」


 思い出す。ドタキャンの後、当てもなくいろいろな店の前を物色していたが、確かにその中に、ペットショップも入っていたはずだ。


「やっぱり。ちらっと通り過ぎただけでも分かったぜ、ショーウインドーから熱心に見てるの。バレバレって感じ」

「え?」

「俺も好きなんだよね、猫」


 そう言って笑うと、少年は――テスターは、さっさと行ってしまった。


「……なにあいつ」


 ()(ぜん)と口を突き出す。

 腕時計を見ると、そろそろ昼休みが終わろうとしていた。


(戻らなきゃ、授業に遅れる)


 しかし残ると言ってしまった手前、すぐには戻れないではないか。

 (りん)はしばし黙考し、


「……もういいや。サボっちゃお」


 再び屋上へと座り込む。足の痛みは引いていた。強く体重をかけなければ、歩くのに支障もないだろう。

 壁にもたれて天を見上げる。

 分厚い雲に覆われてはいたが、それでも空はどこまでも続いていた。


◇ ◇ ◇

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