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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
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4.終息する変事⑨ 痛いほど味わってるだろ。

 まずは、鉄パイプを始めとする屋上周りだ。よくよく見ると鉄パイプに(かな)(づち)なども混じっており、返却先の特定を考えると頭が痛くなってくる。

 左腕は使えないので、右手で1本1本鉄パイプを拾い上げ、テスターへと投げつける。

 それらを器用に受け止めては次々抱え込んでいくテスターに、(りん)が「あのさ」と声をかけた。


「その鉄パイプ、元々屋上にあったやつみたい」

「そうなのか? んじゃ壁際に集めときゃいいか。教えてくれてさんきゅな」

「別に……」


 素っ気なく答え、再び沈黙に戻る(りん)


「にしても」


 鉄パイプを拾って進みながら、リュートは小言を漏らした。


「幽霊に山本をぶつけるなんて、ちょっと乱暴じゃねーか? もしあの男が動じなかったら、どうする気だったんだよ」

「駄目だったとしても、フォローできるタイミングを見計らっただろ。それにいざというときは、偉大なリュート先輩がいるからな」

「その皮肉ほんとやめろよ、殺意湧く」


 歯をむいてテスターを振り返ったところで、


「……あれ?」


 と思い至る。


「どした?」

「幽霊は、山本に同情したんだよな?」

「ああ、そんな感じだったぜ」


 リュートは不思議な面持ちで、自分を指さした。


「俺も一応、散々やられた身だけど。あいつ容赦なかったぜ」

「お前の場合は明らかに邪魔してきたし、まあなんとなくウザかったんじゃないか?」

「俺はなんとなくウザい存在なのか……?」


 釈然としない心地でつぶやくと、テスターが幾分マシな可能性を提示してきた。


「それか、お前自身が記憶の共有を拒否したかだな」

「拒否?」


 言葉とともに鉄パイプを投げる。テスターはすちゃりと受け取ると、なんの気もなしに続けた。


「山本の場合は()れた時に、記憶や感情が流れ込んだんだろうけど――お前は(ざん)(こん)()かれていた時、心を閉じてたんじゃないか?」

「って言われても……よく分かんねえ」


 正直言って、そんなことをした自覚はない。


「俺自身はそんな体験ないからよく分からないけど。お前なら、心を()られる怖さは痛いほど味わってるだろ。無意識に拒否してたのかもな」

「ふうん。そんなものか?」

「いや、専門家じゃないし俺は知らないけどな」


 最後は無責任に投げ出してから、テスターはもっともらしく指を立てた。


「俺的には、お前がウザかった説が濃厚なんじゃないかと思う」

「それはお前の日々の本音か……?」


 さすがに気になって食いつくリュート。

 そうこうしながら鉄パイプを回収しているうちに、塔屋の入り口までやって来てしまった。

 と、扉の窓から影が見える。リュートは眉をひそめた。


「誰かいるのか?」

「あ、そうか」


 あっけらかんと、隣でテスターが声を上げる。


「ふたりきりにするのも気になったんで、一応連れてきたんだった。安全が確認でき次第呼ぶつもりだったんだけど、忘れてた」


 テスターがガチャリと扉を()けると、


「大丈夫ですかリュート様っ⁉」


 待ってましたとばかりに、セラが飛び出してくる。

 よけ損ねたリュートは、がっしと両肩をつかまれながら、


「あ、ああ。まあ」


 セラを安心させようと、とにかくこくこくうなずいた。

 セラの肩越しに、扉の隙間から明美が顔をのぞかせているのが見えた。手を振ってきたので会釈で返す。


「よかった……」


 セラは(あん)()の息をつくと、鋭い視線をテスターに向けた。


「テスターさん、安全確認できたら呼んでくれるって言ってたじゃないですか! どうして呼んでくれないんです⁉」

「悪い悪い。忘れてた」

「で、アレは還元できたんですか?」

「たぶんなー」

「たぶんって……まったく、なにからなにまで適当な……」


 セラはため息をつくと、リュートの肩から手を離して続けた。


「それじゃあ取りあえず、リュート様はこっちです」

「へ?」

「『へ?』じゃないですよ。忘れてるんですか? く・つ・ば・こ」

「あ……」


 靴と土で散らばった廊下を思い出し、うめく。まだ掃除をしていなかった。


「さ、行きましょ」


 もうここに用はないとばかりに、さっさと引き返すセラ。


「テスター、俺靴箱の辺り片づけてくっから。ここよろしくな」

「おー」


 間延びした返事を背に、リュートはセラに続いて塔屋の中に入った。

 明美が()けてくれた扉をすり抜ける際に、


「? 天城君、それ……」


 リュートの不自然に垂れた左腕を見て、明美が声を上げる。


「あ、いやちょっとな」


 リュートは身体(からだ)の角度を変え、()れようと伸ばされた手を()けた。


(ふっ。勝った)


 過去の失敗は繰り返さない。

 リュートが謎の勝利に浸っていると、


「なにしてるんです、早く行きますよっ!」


 セラが思い切り左腕を引っ張り、世も末な叫び声が出た。


◇ ◇ ◇

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