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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
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4.終息する変事⑧ ふざけるなっ!

 ぐ……と息を詰まらせる(りん)。しかしすぐさま、震える声でテスターへと()みついた。


「だって……今更どうしろっていうのよ! 散々いろいろやっておいて……どうすればいいのよ⁉ どうせ私はずっと、嫌な私のままでっ……!」

「なんで無理って前提なんだよ」


 怒りを押し殺したような声で、銀貨が口を挟む。

 彼から反論されることに、慣れていないのだろう。(りん)は困惑したまなざしで、銀貨を見返した。


「今めいっぱい後悔してるなら、少しずつ直していけよ。今の自分が嫌だから他人に八つ当たりを続けるなんて迷惑だ! なんでお前の心の安定のために、僕たちが心をすり減らさなきゃいけないんだよ⁉」


 銀貨は興奮に任せて、リュートとテスターの間を分け入り、


「やり返すだって……? ふざけるなっ! 僕はしない! 絶対にしないからな!」


 (かん)(しゃく)を起こしたように、足を踏み鳴らした。


「本当に悪いと思ってるなら、散々自己嫌悪に陥って、それでも自分を見つめて変わってみろ! 誰だって、謝るだけじゃ変わらないんだよ! それをきっかけとして変わってくんだ!」


 見たのは――初めてだった。

 銀貨が、こうまで激しく(りん)に詰め寄ったのも。


「うう……」


 (りん)が銀貨に圧倒され、()()づいたようにうつむいたのも。


「う……」


 壁に背を預けたまま、ずるずると崩れ落ちる(りん)。へたり込み、地面につけた両拳をぎゅっと握り――


「ごめん……なさい」


 小さく、聞き逃してしまいそうなほどに小さく、つぶやいた。


「僕は……」


 先ほどまでの勢いが(うそ)のように、銀貨がしぼんだ声を出す。

 どういう返答をしたいのか、その表情からは読み取れない。

 答えを出さなくていいよう割り込んでやるべきか、答えを伝えられるまで待ってやるべきか。

 リュートが選択する前に、(ざん)(こん)が選んだ。


『許せる……わけがない……』


 (ざん)(こん)はうなるように言葉を発し、


『でも……俺もきっと……その言葉が欲しかった』


 哀切な表情を貼りつけたまま、(もや)は徐々に形を崩し、やがて空気に溶け消えた。


「終わった……のか?」

「みたいだな」


 テスターの言葉を受け、それでも念のため数十秒ほど待ってから、リュートは()(けん)を解除した。


「つ……っかれた」


 ずどんと――棚上げにしていた全てが一気に押し寄せてきて、倒れ込みたくなる。


「寝るなよリュート。片づけが残ってんだから」

「分かってるよ」


 (くぎ)を刺してくるテスターに不服げに返し、リュートは(りん)へと視線を転じた。


「そういや角崎、足は大丈夫か?」

「別に。大したことない。一時的に痛かっただけ。たぶんもう歩けるし、自分で保健室にも行ける」


 早口で答える(りん)。それが強がりでないことを確認するため、リュートはかがんで、(りん)の右足首に手を()れた。


「ちょ、やめてよ変態!」

「なんでも変態って言えばいいわけじゃねーからな」


 あきれ目で答え、内心ほっとする。

 (りん)()()は本人の言う通り、大したことないようだった。(あお)(あざ)はできるだろうが、それもそのうち消えるだろう。

 銀貨がなにか言いたげなのを見て、リュートは立ち上がった。


「んじゃ、片づけるとすっか」

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