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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
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4.終息する変事⑦ 私は謝らない!

『お……前は、やっぱり、いじめ……加害者……性悪女だ……』


 意外にも、後ろにいる(りん)からはなんの反論も聞こえてこない。よほど疲れ切っているのだろうか。

 男の(もや)は、ゆがんだ顔を(りん)に向けて続ける。


『お前らは、しでかした、事の深刻さを考えない……10年()とうが20年()とうが、された側の記憶は薄れない……なのにお前らは、すぐに、忘れてしまう……お前らがいなければ、俺の人生はもっとより良いものになった……俺の人生は、駄目なまま終わってしまった……終わってしまった!』


 その声圧で自身の(もや)すら吹き飛ばしてしまいそうなほどに、男は()えた。


『ならせめてお前の悔悟を見届けなければ、死にきれないっ!』

「……つまり、角崎に謝罪してほしいってことか? 一体なにをだ? この男に関して謝ることがあるのか?」


 リュートは(ざん)(こん)の意図を読み解こうとするも、つかみきれずにいぶかった。

 答えたのはテスターだ。


「それに関してはまあ、ないわけじゃない――けど、違うと思うぜ。たぶんだけど、自分にじゃなく、山本に対して謝罪してほしいんじゃないか?」

「それ、意味あるのか?」


 つまりは(ざん)(こん)にとって。

 当てずっぽうの()(ごと)かとリュートは流しかけるが、意外にも、(ざん)(こん)はテスターの発言に反応を示してみせた。


『……そ……だ。悔い、改めろ……』


 力が弱まっているのか、(もや)が一度霧散しかけ、再び頼りなげに集まる。


「たぶん、意味があるとかないとかは、関係ないんじゃないかな」


 遠慮がちに指摘してくる銀貨を、リュートは視線で促した。

 銀貨はそれに勢いづけられたようで、たどたどしくも後を続けた。


「きっとさ、最後まで奪われたままな気がして、悔しくて。でも自分をいたぶった相手は、やっぱり怖くて……ぐちゃぐちゃでもう分からなくって……本当に、せめてたった少し、なにかだけでも取り戻したいんだよ」


 (ざん)(こん)と感情を共有しているかのように、悔しげにうつむく銀貨。


「……どうすんだ?」


 リュートはテスターに問いかけた。

 恐らくはテスターの思惑通り、(ざん)(こん)は銀貨に高い共感を示し、単純な暴力に訴えるのを中断した。しかしそれだけでは終わらず、(りん)の――ここが一番難所のような気もするが――心からの謝罪を求めている。

 問われたテスターはちらりと背後に顔を向け、ひどく簡素な物言いで尋ねた。


「君は謝罪する気ある?」

「……ない」


 ずっとだんまりを通していた(りん)が発した返答は、シンプルに(りん)らしいものだった。


「私を痛めつけたいなら、そうすればいい……そうよ、山本。あんたがやればいい」


 思いついたように顔を上げると、(りん)は戸惑いの色を浮かべている銀貨をにらみ据えた。


「あんたがやられたことを、私に全部やり返せばいい。そうすれば、幽霊だって満足するでしょ」

「角崎――」

「私は!」


 なんとか諭そうと口を(ひら)くリュートに、(りん)は語気荒く言葉をかぶせた。


「私は謝らない! 謝ったって私は変わらない……自分がどんな人間なのか認めてしまえば、私は自分が嫌になる。変われないのに自分が嫌で……どうしようもできなくなる」


 唇を震わせる(りん)は、今にも泣きそうな顔をしていた。歯を食いしばって必死に耐えている。

 そんな(りん)にテスターは視線を注ぎ、自明であるかのように淡々と告げた。


「でもさ。君もうすでに、自分が嫌いなんだろ」

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