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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
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4.終息する変事⑤ 本当に言いたいのは、そんな言葉じゃなかった。

 痛みを感じたのは、その衝撃に押されるようにして転倒し、身を起こしてからのことだ。


「ぅう……」


 急激にもよおされる吐き気。(りん)は息を荒くした。息苦しいというよりは、呼吸を重ねることで吐き気をごまかしたかった。


「ったい……」


 逃げるべきなのに、足が痛くて立ち上がれない。

 誰もかばってくれない。かばってもらえるのは、かばうだけの価値がある人間だけだ。


「……別に大したことないし……こんなの、幽霊が疲れるまで、しばらく耐えればいいだけだしっ……」


 歯を食いしばり、頭を抱えて下を向く。それが精いっぱいだった。もうなにも考えたくなかった。

 ……予想してた衝撃と痛みは、いつまで()っても訪れなかった。代わりに、鉄パイプがなにかにはじかれる硬い音が耳に届く。


「え?」


 顔を上げる前に、左腕を強引につかみ上げられ、後方に突き飛ばされた。


「ひゃっ⁉」

「どいてろっ!」


 壁にたたきつけられ、息が詰まる。踏ん張った右足の痛みに悲鳴を上げながら、(りん)は前を向いた。

 目に入ったのは()(けん)とかいう武器を構えた、いけ好かない(わたり)(びと)だった。大して広くもない背中で、(りん)をかばうようにして立っている。本当は嫌なくせに。

 ほとんど条件反射で(りん)はかっとなり、


「……なによ、ほっといてって言ったでしょ! あんたなんか――」

「悪かったよ」


 罵倒を遮り、(わたり)(びと)がぶっきらぼうに口を挟んでくる。


「……え?」


 彼はこちらを振り向きもせず、むすっとした口調で続けた。


「あんなに傷つくなんて、思ってなかった」


 途端、顔が紅潮するのを自覚する。


「はぁ? べっつに傷ついたりなんかしてないし! 第一――」


 口上は、再度の打撃音で遮られた。


「ぁあくそ! 誰だよこんなもん放置したのはっ」


 (わたり)(びと)は舌打ちを放つと、ちらりと肩越しに聞いてきた。


「走れるか?」

「右足が……ちょっと休めば、走れそうだけど……」


 苦々しく答えると、彼は(りん)の足元に目を向け、すぐにそらした。

 もちろんじっと見ている状況ではないのだが、まるで直視するのを()けるかのような動きだった。


「これが収まったらすぐ、訓練校に行くぞ」

「だからそれは――」

「嫌と言っても連れていく。幽霊なんて俺の手には負えない。(のん)()に霊媒師を待つんじゃなく、もっとセシルをせっつくべきだったんだ」


 (わたり)(びと)が追い込まれているのは明らかだった。幽霊はコツをつかんできたのか、数本の鉄パイプを同時に放ってきていた。短めの()(けん)――こちらは()を創っていない――も使ってなんとか裁いているようだが……


「っ……」


 短い()(けん)では威力を殺せないらしく、(わたり)(びと)がうめき声を上げる。


「だいぶ手慣れてきちまって……これじゃ、どこ行っても危険じゃねーか」

「なによ……そんなに(わたり)(びと)の評判落ちるのが怖いわけ⁉」


 彼の左手首に残る、痛々しい手錠の跡。散々擦れて、締めつけられたのだろう。同様につながれたはずなのに、(りん)の手首には目立つような跡はなかった。


「やめてよ! うわべだけの親切なんて、気持ち悪いだけなんだから!」


 本当に言いたいのは、そんな言葉じゃなかった。

 悪態を吐かれても、どんなに打たれても、(わたり)(びと)(りん)をかばうのをやめない。

 こちらに届こうとした鉄パイプをはねのけた(わたり)(びと)の腕が、鈍い音を立てる。


「偽善者のくせに! なのになんで……なんでそんなに必死になんのよ⁉」


 見せつけられるほど、思い知らされる。自分がどれだけ惨めなのかを。


「やめてよ……これじゃあ私……本当に、クズじゃない」


 歯の隙間から漏れるように出た声はか細く、自分でもよく聞き取れなかった。

 その時――


◇ ◇ ◇

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