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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
154/389

4.終息する変事② 私の天城君に対する感情は……

◇ ◇ ◇


(天城君、大変そうだな。角崎さんに付きっきりで)


 遠ざかっていく(りゅう)()の足音を聞きながら、明美は胸中でつぶやく。

 (りん)を放っておくわけにはいかないということで、(りゅう)()は彼女を追って教室を出ていった。

 それが少し(さび)しくもあった。まるで自分の立ち位置が取られたみたいで。


(……私って嫌な人間)


 ちょっと構ってもらえなくなったからって――しかも自分の(えい)()(りゅう)()の負担でしかないことを知っていながら――、そんな思いにとらわれる自分が嫌だった。

 でも、ひとつ分かってすっきりしたことがある。


(私の天城君に対する感情は……たぶん恋じゃない)


 (りゅう)()と出会った頃の感情について、()()が説明してくれたことがあった。

 明美が(りゅう)()を気にかけていたのは、内に()る女神が原因で、明美の感情に起因するものではないと。

 今だって、桃色めいた嫉妬が湧き起こるわけでもない。ただ少し(さび)しいだけだ。


「よし。待ってたって時間の無駄だし、俺たちだけでも昼食にするか」


 ビニール袋を掲げ、テスターが軽やかに宣言する。

 セラがすかさずあきれた声を上げた。


「そんなこと言って、テスターさんは自分が食べたいだけじゃないですか」

「しょうがないだろー。俺ってば燃費悪いんだから。腹が減っては鬼は倒せぬ、だろ?」

「腹が肥えても鬼は倒せぬ、ですよ」


 譲らぬように告げてから、セラは「あ」と漏らした。


「私ちょっと、学長に電話報告してきますね」


 言い終えるなり、ここ――つまりは明美と銀貨のいる場所――では話しにくい内容なのか、ぱたぱたと小走りに出ていった。


「ほんと手厳しいよなー、セラは。なあ?」

「そ、そうだね……なのかな?」


 同意を求めて向けられた目に、明美が申し訳程度の(あい)(づち)を返すと。

 スマートフォンの振動音が、どこからか聞こえてきた。

 テスターが胸ポケットから、手早くスマートフォンを取り出す。


「はい、テスターです」


 応答しながら、手近な机にビニール袋を置き、教室隅へと移動するテスター。


「今ちょうど、セラがそちらにご報告しようと出ていったところですよ――ええ。俺は今、()()()()()()と昼食を取ろうとしているところです」


 返答の感じからするに、明美たちがいても支障ない会話にもっていくつもりのようだ。

 それでもやはり、聞き取るのは後ろめたい。

 明美が銀貨の方を向くと、彼も同じ事を感じていたらしく、物言いたげな視線とぶつかった。

 視線と指で示し合わせて、明美と銀貨は、テスターとは対極に位置する机へと移動した。隣り合って着席し、手持ち無沙汰な沈黙が訪れる前に口を(ひら)く。


「幽霊って本当にいるんだね」

「だね。僕も今まで本気で考えたことなかったよ。でも鬼がいるんだし、幽霊だっていてもおかしくないのかな」

「それもそっか。だけど角崎さんも災難だね」

「……どうだろう」

「え?」


 世間話的な一続きの流れに乱れが生じ、明美はつんのめった心持ちで聞き返した。

 銀貨はこちらには視線を返さず、机の表面に漠然と目を落としていた。


「僕はちょっと、思ってるかもしれない……いい気味だって」

「……ごめんなさい。私、無神経なこと言っちゃった」


 表情のない横顔を直視できず、明美もまたうつむいた。


(私ってば……)


 銀貨と普通に話せるようになったことがうれしくて、つい忘れてしまう。

 銀貨が明美を助けたせいで、ひどく苦しむ羽目になったことを。


「須藤さんは?」

「え?」


 ぱっと顔を向けると、銀貨は陰った顔で続けてきた。


「須藤さんはどう思ってるの?」


 同調してほしいような、してほしくないような――自分でも分かっていないような聞き方だった。

 明美は考えた。自分の心を探って答えを探した。しかし、


「私は……分からない」


 答えは形にならなかった。

 沈黙が続く。テスターの話し声が耳に届いたが、盗み聞きしてしまうという気まずさは感じなかった。

 頭の中で思考がぐるぐると渦巻き、聞こえた内容は全部、頭に入ることなく右から左へと素通りしていたから。


◇ ◇ ◇

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