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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
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4.終息する変事① どうせいい気味とでも思ってるんでしょ。

◇ ◇ ◇


「これでよし、と」


 男子生徒が鍵を回すと、かちゃりと音を立て手錠が外れた。


「あー死ぬかと思った!」


 すぐさま(りん)が、汚物を回避するかのごとく手を引き離す。

 それを諦観というか達観の域に達した目で見届けてから、リュートも久々に自由になった左手を引き寄せた。散々痛めつけられた手首をさすりながら、助けてくれた男子生徒――確か田中といったか――に礼を言う。


「助かりました。すみません、授業欠席させてしまって」


 電車の遅延により、田中は結局、午前中のほとんどの授業に出られなかった。

 もう昼休みを回っており、ここ多目的室にも、中庭へ向かう生徒たちの声が届いている。


「それは別にいいよ、むしろサボるいい口実になったし。鍵を1個なくしちゃったのは残念だけどね」


 手錠を片手に眼鏡をくいと押し上げ、田中がため息をつく。


「それはその……本当にすみません」


 発見できなかった以上そうとしか言えず、リュートは深々と頭を下げた。


「まあもう少し探してみるよ。たぶん教室か、少なくともその近くにはあるだろうから」

「もし見つけたら必ずお返しいたしますので」

「うん、ありがとう」


 社交辞令的に言葉を交わし、退室する田中の背中を見送ると、入れ違いにテスターとセラが入ってきた。それと明美に、なぜだか銀貨も。


「なんであんたたちが来んのよ」


 ぞろぞろ集まってきた入室者たちを、(りん)が渋面で(けん)(せい)する。実をいえば銀貨に関しては、リュートも似たような心境ではあった。

 (りん)のまなざしに()()されながらも、明美が口を(ひら)く。


「お昼、みんなでどうかなと思って」

「パンばっかだけど一緒に食べるか? 多めに買ってあるから、君ひとり分くらいなら足りるぜ」


 テスターは、手にしたビニール袋を前に差し出した。袋をはち切れんばかりに膨らませているのは、どうやら購買のパンのようだ。

 セラも――こちらは完全に演技だろうが――両手のひらを合わせて弾んだ声を上げる。


「そうですよ、せっかくですし交流を深めましょうっ」

「じょーだん! やっと自由になれたのに、なんであんたたちなんかと食べなきゃいけないのよ!」


 テスターの手をはたき、教室を出ていこうとする(りん)

 リュートは慌てて制止をかけた。


「待てよ! まだ(ざん)――幽霊の件は片づいてないだろっ」

「っさいわね!」

「……狙われてるなら、(りゅう)()君たちといた方が安全だと思うけど」


 感情が受けつけない正論を挟まれ、(りん)()()と銀貨をにらむ。

 それだけで銀貨は黙り込んだが、リュートは別のことが気になって銀貨を見つめた。次いで、明美へと視線を転じる。

 彼女はリュートの顔――やらかした子どもにどう注意しようか、と困っているような――を見返し、わたわたと弁解しだした。


「ご、ごめんなさい。ついうっかり……でも山本君以外には話してないから」

「まあ、話すなとは言ってないしな」


 別にいいかと息をつく。

 (ざん)(こん)の成り立ちについては秘匿事項だが、地球人が『幽霊』についてどうこういうのは、(しん)(ぼく)側からすると「好きにしろ」といったところだ。別に干渉することでもない。

 が、(りん)の方は「別にいいか」とはいかないらしい。銀貨と明美を鬱陶しげに見ると、口をゆがめて吐き出した。


「そう、あんたらも知ってるんだ――どうせいい気味とでも思ってるんでしょ」

「そんなこと――」

「言っとくけど」


 明美を遮り、(りん)が冷たく告げる。


「あんたたちにしたこと、悪いなんて思ってないから」


 たっぷりふたりを(へい)(げい)した後、(りん)は教室を立ち去った。

 それは自分の殻を必死に守っているような、どこかもろいかたくなさに見えた。


◇ ◇ ◇

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