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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
151/389

3.爆ぜる理不尽⑥ いちいち陰険なっ……

◇ ◇ ◇


「だ、だいぶパワーアップしたな」


 リュートは半笑いを浮かべながら、天井近くに漂う、1台の机と1脚の椅子を見上げた。

 すぐそばの多目的室からやってきたのだろう。(ざん)(こん)が支配の具合でも確かめているのか、不安定に揺れ動いている。

 鈍く光る鉄の脚を見て、リュートは方針を変更した。()(けん)を抜きながら、


「角崎、ちょっと引っ張るからな。文句言うなよ」

「え? わ、ちょっと!」


 左手を使って剣帯からカートリッジを取り出し、()(けん)(つか)へと挿入する。(けん)(しん)にうがたれた穴から流れ出た血液がうごめき、即座に(けん)(しん)をコーティングして(やいば)となる。

 ただし通常時と違い、()の鋭さは抑えてあった。後々面倒なので、でき得る限り備品は損傷させたくない。

 リュートは身を翻した。


「走るぞ!」

「どこ行くの⁉」

「外だよ!」


 短く答えて(りん)の手を握る。


「ちょっと!」

「こうでもしなきゃ手錠が締まって痛いだろ! 我慢しろ!」


 空飛ぶ机と椅子に追われるという異様な光景の中、ふたり手をつないで廊下をひた走る。

 今が授業時間であること、1階は普通教室がないこと。それがせめてもの幸いだった。こんな突飛な現象、生徒たちに目撃されたらいろいろな意味で面倒なことになる。

 引き離せると思っていたわけではないが、思っていたより早く、()(しょう)物が距離を詰めてきた。

 リュートは肩越しに確認すると、剣柄(たかみ)を握り締めた。


「角崎止まるぞっ、あと振り返るから合わせて動け!」

「ちょ、いきなりっ?」


 言いつつも、(りん)はどうにか反応してくれた。

 彼女が前に出てこないよう注意しながら、振り向きざまに()(けん)を振るう。

 迫って来ていた椅子をはじき返し、続けざまに襲ってきた机の(へり)()で受けるが。

 片腕分の(りょ)(りょく)では心もとなく、跳ね返すと同時にリュートも後ろによろめいた。

 椅子と机が廊下にたたきつけられる、激しい音を背後に聞きながら、


「っ……走るぞ!」


 (りん)を促して再スタートする。

 やがて靴箱が見えてきた。昇降口だ。


「そっから外に――」


 出入り口に目を向け、ぎょっとする。

 (たすき)()高校は原則として土足が許可されているが、土汚れのひどい靴は、校舎内では使用厳禁だ。そのため運動靴などは、ここの靴箱で履き替えることになっている(これについては、守護騎士(ガーディアン)を生徒として迎え入れることが決定した際も議題に挙がるくらいには、学校側も気にかけている問題らしい)。

 そういった土にまみれた運動靴が十数足、リュートたちの前方に浮遊していた。


「いちいち陰険なっ……」


 口内の空気を()み潰し、リュートはひるんでいる(りん)の手を引いた。


「突っ込むぞ!」

「ええぇっ⁉」


 飛んでくる靴たちを()(けん)で打ち払い、いくつかは身体(からだ)に当たるに任せる。

 しかし、さすがに全ては受け止められず、


「痛い! もうやだぁ!」


 靴が命中したらしい(りん)が悲鳴を上げる。


「あれ全部俺が片づけんのかよ⁉」


 リュートは廊下に散らばり落ちる靴や砂を(いち)(べつ)し、違った意味で悲鳴を上げた。

 どうにか強引に靴箱を突っ切り、外へと飛び出すと。

 運動場に続く、まさにその進行方向に。

 次元をゆがませ()(しん)が出てきた。


「ははー! すっげータイミングマジうぜえ!」


 笑いながら罵声を上げる。ちょっと涙ぐんでいたかもしれない。

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