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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
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3.爆ぜる理不尽④ 前向きに行こうぜ。

◇ ◇ ◇


「ちょっとちゃんと手を動かしてよね。ノート取れないでしょ」

「動かしてるだろちゃんと」

「だからトロいのよ全体的にっ。守護騎士(ガーディアン)なら、私の動きを先読みして合わせるくらいできないわけ?」

「俺だってノート取ってんだ、そっちばっか注目してられっかよ」

「うっわ自己中!」

「それはお前が言っちゃいけない台詞(せりふ)の筆頭だよな!」

「じゃあ俺なら言ってもいいか?」


 割って入った声にリュートと(りん)は、ふたりそろって振り向いた。

 教壇の上。チョークを片手に、飯島がやや険しい顔でこちらを見ていた。


「お前らになにがあったのかは聞かない。天城は今、いろいろと大変らしいしな。だが私語は困るな。重要な話なら、せめてもっと声量を抑えてくれ」

『すみません……』


 口をそろえて謝ると、飯島は肩をすくめて板書に戻った。気にならないはずはないのだろうが、本当に『事情は聞かず』を貫くつもりらしい。ひとつ前の授業では教師への説明――というか言い訳に苦労したことを考えると、これはかなり都合が良かった。

 (あん)()の息をつき、(りん)と視線を交わす――『お前のせいだからな』。

 リュートと(りん)は目だけで罵り合い、おのおののノートへと視線を戻した。こすれた手錠が、かちゃりと小さく音を立てる。


 ――結論からいえば、手錠は外せなかった。

 2組の生徒たちが戻ってきて、リュートたちを発見した時。

 他クラス所属のリュートと(りん)がなぜ、小道具を散らかし、手錠につながれていたのか――それについては誰も深くは追及してこなかった。

 というか問い詰められる前に先手を打って、『鬼が(げん)(しゅつ)して対処してたら小道具が飛び散り気づいたら手錠につながれていた』という話を、至って大真面目にもっともらしく駄目元で語ったら、なぜだか納得されてしまったのだ(あえてスルーされただけなのかもしれないが)。


 そうなると目下の問題は解錠だった。

 生徒たちの話では、鍵は確かに小道具入れにしまってあるとのことだった。

 しかし現実問題、リュートと(りん)が探した限りでは見当たらなかった。2組の生徒たちも手分けして探してくれたが、そのかいもなく手錠は出てこず。

 最終的に予備の鍵を所有している生徒が、自宅に取りに行ってくれることになった。


(住所を聞いた感じだと、距離的にそろそろ戻ってくる頃合いだよな……)


 黒板の証明式をノートに写し取りながら、思いを巡らす。(おも)だっては負の方向にだ。

 前述の生徒が学校に戻ってき次第、(りん)のスマートフォンに連絡してもらう()(はず)なのだが、いまだになんの音沙汰もない。

 机の下で握ったスマートフォンをチェックし、十何度目かの舌打ちをする(りん)に、リュートは顔を寄せてささやいた。


「角崎。お前放課後、時間あるか?」

「なんでよ?」


 同じくささやき声で、しかし険だけはたっぷり含ませて、(りん)が聞き返してくる。


「取りあえず俺たちの訓練校に来いよ。あんま期待はできねえけど、気休め程度の処置はしてもらえる」

「はあ? 嫌よ(わたり)(びと)の学校なんて」

「あのな、お前のために言ってやってんだぞ」


 あきれた声を出すと、(りん)は舌を出してきた。


「出たお得意の『地球人のために』。うっざ。ていうかあんた、私の机にベタベタ触らないでくれる? 菌が伝染(うつ)る」

「だったら席だけじゃなく、机と椅子ごと替えればよかっただろ」


 机を指し、半眼で告げる。

 手錠でつながれている以上、通常の席順で座ることは不可能だ。影響の少ない範囲で席を入れ替えた結果、(りん)の席にリュートが、その左隣に(りん)が座ることとなった。もちろんそれだけでは距離が遠いため、特別にふたつの机を密着させてある。

 そのことが余計に(りん)の神経をいらつかせるらしく、彼女は先ほどからシャープペンシルを、ほとんど突き立てるようにしてノートを取っていた。


「ちょっとの我慢かと思ってたのよ。ほんっっと、替えとけばよかった。変態の菌に汚染されるマジ最悪」

「お前なあ、ガキみたいなこと言ってんじゃ――」

「黙れ」


 右拳で額を殴打してきた(りん)は、こちらではなく手元のスマートフォンを見ていた。

 どうやらメールが届いたらしく、興奮した面持ちで文面をチェックし、


「なにそれぇっ⁉」


 どでかい悲鳴を上げた。


「角崎、授業の邪魔だ」

「すみません先生!」


 リュートは代わりに謝罪した。授業どころではなさそうな(りん)の顔を(いち)(べつ)した後、彼女のスマートフォンをのぞき見る。


『1年2組の()(なか)です。電車が止まったので到着が遅れます』


 画面の文字がぶれているのは、スマートフォンを持つ(りん)の手が、わなわなと震えているからだった。


「あ、あー……ついてねえな。でもほら、もう戻ってくる途中だぞ。もうちょっとだって。前向きに行こうぜ」


 あせあせと(りん)を励ますリュート。

 しかし(りん)は、


「もう嫌っ!」


 がたりと立ち上がり、教室内を横切って扉へと向かう。


「ちょ……馬鹿待てって! 授業中だぞ!」


 引っ張られながらもなだめようとするが、(りん)は全く聞く様子もない。


「おい待てっつって――()っ、せめてつながれてること自覚しろよ、おい!」


 巻き添えで授業を離脱する羽目になったリュートは、教室を出る最後の瞬間にセラと目が合った。手錠の件は伝えてあるので、(りん)の怒りが爆発した理由も察せたであろう。

 セラは完全にあきれたまなざしで、口パクでなにかを言っていた。

 読唇術の心得などリュートにはなかったが、なにを言っているのかはなんとなく分かった。


『なにやってるのよお兄ちゃん』

(俺が知りたいわ!)


 リュートも口パクで返した。


◇ ◇ ◇

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