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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
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2.くすぶる憎悪⑪ あんたたちはイメージが大事だもんね。

◇ ◇ ◇


 (りん)はずかずかと、競歩のような勢いで歩を進めた。

 怒りは収まるどころか、破裂した水道管のように噴出し続けている。


(なんっなのよあの変態は!)


 もっと蹴っておけばよかったと後悔する。


(よりにもよってあの場所で……目の前で!)


 なにが『よりにもよって』なのか。思っておいて自分でもよく分からず、ここまで腹立たしいのもなぜなのか不明だった。


(いや、不明じゃないわよスカートめくられたんだから! 馬っ鹿じゃないの私!)


 今の怒りがぶれないように、自分を一喝する。


(あいつ絶対に許さないっ!)


 鼻息荒く階段に差しかかったところで、背後から声がかかった。


「角崎、待ってくれ!」


 待つ義理もなかったが、(りん)は振り返った。散々謝罪させた上で、教師に訴え出るのも悪くない。

 追ってきたのは(とう)(はつ)(わたり)(びと)だった。頭に手を当て、申し訳なさそうに言ってくる。


「ごめん、リュートは悪気があったわけじゃないんだ。だから――」

「だから騒ぎ立てるなって? (わたり)(びと)がワイセツ行為だなんて、不名誉極まりないから?」


 テスターの言葉を遮り、(りん)はぴしゃりと言い放った。軽蔑したまなざしで、


「あんたたちはイメージが大事だもんね。なんだかんだいっても、こびへつらわなければ生きていけないのよ」

「そうだよ」


 あっさりと同意され、鼻白む。

 テスターは階段の手すりに手を滑らせながら、淡々と続ける。


「俺たちは君たちの理解を超えた力をもっているし、(しん)(たい)的なアドバンテージもある。その代わり君たちは武力を誇示して、こちらの権力を抑え込む。そうやって、結果的に均衡が(たも)たれるんだ――でもその均衡は、()(さい)なことから崩れてしまう」


 彼はひたり、と(りん)の目を見つめてきた。その瞳があまりにも真摯で、目をそらすことができない。


「君に恥をかかせてしまったことは、俺からも謝罪する。怒るのは当然だと思う。でも、俺たちの立場を危うくすることだけは、お願いだからやめてくれないか」


 じっと。実質的な、真正面からの純粋な口止めに、(りん)は。


「わ……かったわよ! でも次はないから!」


 なぜだか了承してしまう。そんなつもりはなかったのに。

 (りん)の回答にテスターが、ぱっと顔を明るくする。


「ありがとう。君って結構いいやつだな」

「な……それ嫌みっ⁉」


 思わず詰め寄る。もうひとりの守護騎士(ガーディアン)への行為を、知らぬわけでもあるまいに。


「あー、リュートのこと?」


 言わずとも察したのか、テスターは厄払いでもするかのように軽く手を振り、


「ま、あんまいじめてやんなよな。慣れてるとはいえかわいそうだぜ?」


 冗談交じりに(くぎ)を刺してくる。


「んじゃな。お礼ってわけでもないけど、困ったときは相談してくれ。力になるぜ」


 くるりと反転し、歩きだすテスターの背中に。


(わたり)(びと)なんかに相談するわけないでしょ! 馬っ鹿じゃない⁉」


 (りん)は思い切り憎まれ口を返した。


「はは、そうだな」


 笑って流されどこまでも負けた気がして、(りん)は足裏で床をたたいた。


「なんなのよあいつ!」


 不思議と、先ほどまでの怒りはどこかへ消えていた。


◇ ◇ ◇

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