表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
144/389

2.くすぶる憎悪⑩ あんたが愛を語らないで。

 頭痛やら吐き気やら目まいやら。色んなものに一挙に襲われ、身体(からだ)を丸めてひたすら耐え忍ぶ。

 数十秒ほど()ってから頃合いを見計らうかのように、明美が口を(ひら)いた。


「先ほどの(ざん)(こん)、だいぶあらぶっていたな。晴らせない恨みの()(ぐち)に、あの(むすめ)をいたぶる気か……?」


 いまだ(もん)(ぜつ)中ではあったものの聞き捨てならないことを言われ、リュートは女神――だろう、たぶん――に聞き返した。


「それ、どういうことだ?」

(ざん)(こん)は角崎(りん)に恨みがあるんじゃなかったの? お兄ちゃんが確かに、角崎だと聞いたって」


 セラも、戸惑うような視線を女神に向ける。

 女神は()()()()()という優越感にでも浸っているのか、大仰にうなずき、腕を組んで答えてきた。


「具現化した時に伝わってきた。あの(ざん)(こん)は幼少期から度々、いわゆるいじめにあっていたようだな。社会に出てからも、本人としては不遇な毎日を送っており、数週間前に交通事故で死んだようだ」

「それが、なんで角崎につながるんだよ」

「本当は自分をいじめた人間に(ふく)(しゅう)をしたいが、()()づいているようだ。それで生前出会った中で記憶に新しい、似たようなタイプの人間を狙っているとみえる」


 いつまでも寝てはいられないため、リュートは片肘を突いて身を起こした。


「みえる……って、それで狙われる方も、たまったもんじゃねーけど……」

「いいんじゃない別に。角崎(りん)だし」


 あっさりと容赦なく、セラ。


「まあよかったではないか。望み通り(じょ)(こん)はできたのだから」

「え?」


 女神の言葉に(きょ)を突かれる。

 女神は意外そうに腕を解くと、


「気づいてなかったのか? 貴様の左腕に、もうやつはいない」

「還元されたってこと?」

「まるで話を聞いていないな。愚鈍もここまで来ると希少価値か」


 口を挟むセラに、女神がふんと鼻を鳴らす。


「言っただろうが、()(ぐち)にするつもりだと。別のやり方で、あの(むすめ)を追い詰める気なのだろう」


 ギリギリと歯をきしませるセラの形相から目をそらし――怖かったのだ、割と本気で――リュートは女神を見上げた。


「お前はだいぶ落ち着いてるんだな。地球人が危険だってのに。大切な『子どもたち』じゃなかったのか?」

「そうだ。子ども『たち』だ――個々人にまで構ってはいられない」

「……そーかよ」

「どうした? もっとうれしがるかと思ったが」

「うれしがる?」


 よろよろと立ち上がりながら、不機嫌に片眉を上げる。

 恐ろしいことに、女神は本気で説いてきた。


「地球人に私の愛を奪われた(しん)(ぼく)としては、彼らが妬ましいだろう」

「お前を巡って嫉妬なんかするかよ。つーか――」

「あんたが愛を語らないで。(むし)()が走るわ」


 セラが端的にリュートの気持ちを代弁する。

 異論もないので無言で女神を見ると、女神はどうでもいいとばかりに肩をすくめた。それで終わりということらしい。


「しっかしあれだな」


 リュートは解放された実感を味わうように、左手で髪を(わし)づかみにした。


「自業自得ってわけでもないなら、ほっとくわけにもいかねーか」

「私的には全然オッケーだけど」

「お前っていっそすがすがしいな……」


 ()(じん)もぶれないセラに、リュートはおびえ半分うらやみ半分のまなざしを送った。


◇ ◇ ◇

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ