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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
142/389

2.くすぶる憎悪⑧ 尊厳とかそういった類いのもの

◇ ◇ ◇


 朝のホームルームを告げるチャイムとともに、(いい)(じま)が教室に入ってくる。彼は教卓の後ろに立つと、出席状況を確認しようと教室をざっと見渡し、


「なんだ(あま)()、反抗期か?」

「違います」


 短く聞いてくる飯島に、リュートはやはり短く答えた。

 飯島だけでなく、教室中から視線が集まっているのは気づいていた。まるで2カ月前の状況に逆戻りだ。

 抱えていた頭から右手を離すと、絡んで抜けた金髪が目に入る。

 

 そう、金髪。

 今、リュートの髪の毛は1本残らず、明るい金色に染め上げられている。

 土日に散々ツクバの実験に付き合わされたが、結局(ざん)(こん)の還元はかなわなかった。聖水が塗り込まれたとかいうナイフも耐性がついたのかなんなのか、二度目を試しても全く効果が現れず。

 ならばせめて思考を乗っ取られることがないようにと、退(たい)(こん)効果のある染料とやらで髪を染められたのだが。


(……効果あるんだろーな、これは)


 ()(ぜん)とした面持ちで(ほお)(づえ)を突く。これで効果がなければただの馬鹿だ。

 飯島が頭をかきながら、言いにくそうに続ける。


「天城。一応お前はここの生徒だし、あまり派手な髪色に染めるのはな……」

「すみま――」

「飯島先生!」


 謝罪とともにリュートが言い訳を並べ立てようとしたところで、セラが非の打ちどころのない、実に美しいフォームで挙手をした。


「リュート様は今、(わたり)(びと)特有の病気に悩まされておりまして。意思に反して身体(からだ)が暴れだす発作を抑えるために、その染髪は不可欠な措置なのです」

「……そうなのか?」


 理解しがたい顔で、教室後方に向かって尋ねる飯島。そこから間を置かず、テスターのあっさりとした声が返ってくる。


「そうですね。今のリュートは色んな意味で危険です。突然叫んだり、歌いだしたりしても不思議ではありません」

「……分かった。天城、特別に黙認しよう」


 納得というよりは、明らかにこれ以上は踏み込みたくないという声音で、飯島が実質的な許可を出す。


「ありがとうございます……」


 ここ数日のうちに重要ななにか――尊厳とかそういった類いのもの――を急速に失っている気がして、リュートは震えるように目を伏せた。

 あとはいつも通り、事務的な連絡が続く。1限目の生物が休講になったと聞いた時だけ、教室内から歓声が沸いた。

 ホームルームを終えた飯島が、教室から出ていくのを見計らって。

 セラが席を立ち、いそいそと(りん)の元へと寄っていく。


「角崎さん」

「なによ?」


 鬱陶しいという気持ちを隠すどころか前面に押し出しながら、角崎が応じる。


「ちょっとお時間よろしいですか?」

「あんたが私に、なんの用があるってのよ」

「大事な話があるんだよ。セラだけじゃなく、俺たちからな」


 背後からかかった声に、(りん)が驚いたように振り向く。

 セラ、リュート、テスター、明美の4人に囲まれ、


「へえー。こわーい」


 (りん)は攻撃的に口をゆがめた。


◇ ◇ ◇

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