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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
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2.くすぶる憎悪⑥ 奇遇ですね

「存在のルールすらねじ曲げて、ねえ……」


 リュートは左腕を上げ、今はおとなしく眠って(?)いる(ざん)(こん)に問いかけた。


「お前はそうまでして、なにを求めているんだ……?」

「――それよ!」


 突然、首から上がねじ飛ぶかと思うほどの勢いで、ツクバがこちらに顔を向ける。


「え?」


 彼女はリュートの両肩をガシッとつかむと、激しく前後に揺さぶってきた。目をかっ開き、


(ざん)(こん)から未練を聞き出して、それを解消してあげればいいのよ! なんでこんな当たり前のこと思いつかなかったのかしら! あたしってばどうかしてる!」

「奇遇ですね俺の三半規管もどうにかなりそうです!」


 ぐわんぐわんと視界が揺れる中、叫ぶ。

 気づいたツクバが「あっごめんごめん」と急に手を離したため、リュートは後ろによろめいた。


「リュー、ちょっと待ってて!」


 一方的に言い捨て、ツクバが身を翻す。研究会室へと戻っていくその背中に、定まらない視線で「りょ、了解です」と返し、


(すっげー馬鹿力……)


 首の後ろに手を当てる。振り回された頭が与えた負荷に、首が悲鳴を上げていた。


(G専科生としては歓迎すべき長所だな)


 それを仲間(こちら)に発揮してほしくはなかったが。

 と、揺らぐ視線が安定したところで、ちょうどツクバが駆け戻ってきた。


「お待たせー。はい、これ飲んで」


 差し出されたのは茶色の小瓶だった。半透明で、栄養ドリンクに使われる類いのものだ。

 というより、そのものなのかもしれない。()がし損ねたラベルの跡を見ながら、リュートはあきれたようにツクバに聞いた。


「これも通販ですか?」

「相手は実績ある契約霊媒師だから、(しん)(ぴょう)(せい)は確かよ。この薬は体内に取り込むことで、(ざん)(こん)との同調を促すの」


 得意げに、腰に手を当てるツクバ。

 しかし、リュートはむしろ不安をかき立てられた。眉をひそめ、


「俺素人ですけど、それってなんかヤバくないですか? (ざん)(こん)に乗っ取られるんじゃ……」

「そこはリューの気合次第ね」

「なんですぐ気合にもってくんですか」

「んもう、そんなことどうでもいいでしょ。早く飲んで飲んで」

「わ、分かりましたから、そんな押さないでください」


 ()()てられ、リュートは仕方なく小瓶の蓋を()けた。特に刺激臭はないが、それで安心というわけでもなく――無臭の毒だってたくさん存在する――恐る恐る、瓶のふちに口を付ける。

 味は……妙に甘い。くど過ぎて気持ち悪くなるような甘さだ。

 我慢しながら休憩を挟みつつ、口内へと流し込んでいく。


「なんっか……どろどろしますね」

「ああ、それたぶん煮崩した雄牛の目玉」


 ぶっ。

 盛大に吹き出すリュートを見て、ツクバがけらけらと笑う。


「冗談よ冗談。にしても古典的なリアクションねー」

「古典的なギャグかましといてなに言うんですか」


 つんとする鼻を押さえ――少しばかり鼻に逆流したのだ――リュートは抗議した。


「ごめんごめん。もうふざけないから」


 言いながら目に涙を浮かべて笑いを引きずるツクバに、説得力は(かけ)()も感じなかった。

 とにもかくにもこの味から早く解放されたくて、リュートは残りの液体を一気に飲み干した。


「うえ」


 舌を出し、唾液でごまかそうと何度も(えん)()を繰り返す。

 ツクバが期待を込めたまなざしで、


「どう? なにか感じる?」

「んー……別になにも……」


 半ば以上諦めて、それでも一応は待つ――と。

 ぞわっと、爪先から頭頂まで一瞬で駆け抜けたなにかに総毛立つ。それは一度抜けた後再びリュートの中に入り、(から)()(じゅう)を駆け巡った。物理的ではない、感情の波だ。

 痛み、悔しさ、怒り、悲しみ。そして憎しみ。

 憎い。どうして自分がこんな目に。自分がなにをしたというのか。

 ……したい。(ふく)(しゅう)したい。徹底的に痛めつけてやりたい。そうでなければ、割に合わないではないか。

 極限まで恐怖させ、徹底的に痛めつけ、


(あいつら全員、殺してやりたい……)

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