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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第1章 神苑の守護騎士
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2.地球人と疑惑と渡人③ リュート様っ!

 改めて思い返し、苦々しくうめく。


「そう、だな……」

「そうそう、ひとつ学んで良かったじゃん」


 ぺろりと唇をなめ、テスターはスプーンを引っ込めた。皿に残ったカレーライスをかき集めながら、


「あ。ひょっとしたら学長も、そう戒めるためにあえて黙ってたりして」

「……本当にそう思うか?」

「まっさか」


 悪びれもせずに即答する。

 リュートが肩をこけさせると、テスターはスプーンを運ぶ手は休めず後を続けた。


「まあ真面目な話、なんか事情があったんじゃないか? (おさ)だからというより(しん)(ぼく)として、そんなリスキーなことをするとは思えない」

「ああ、お前が正しいよ」


 冷静になってみると、自分がひどく馬鹿に感じられた。セシルは学長であり世界守衛機関(WGO)総代表であり(しん)(ぼく)(おさ)なのだから、おいそれと話せない事情など多々あるに違いない。


(どうせなら(おさ)として、嫌みだだ漏れのいまいましい性格も矯正してほしいけどな……)


 ため息を吐き、リュートもカレーライスに専念することにした。

 甘口のため(から)みは全く感じない。辛口を至高とするテスターから言わせれば、それは邪道であり非常に情けない食べ方らしいのだが、まったくもって大きなお世話だった。


「にしてもすごいな」


 先に食べ終わったテスターが、思い出したように口を(ひら)く。


「お前、よく()(しん)の《()》なんて斬ったよな。下手したら死んでるぜ?」

「ああ、まったくだ」


 じくじくと続くうずきが強まった気がして、リュートはそっと脇腹を押さえた。

 ()(しん)の体液に浸食された箇所は因子をやられ、どす黒く変色していた。見ていてあまり気持ちのいいものではない。


「なんで積極的に痛い目見に行くんだよ」


 テスターは理解できないものを見る目でリュートを眺めた後、はっとし、ぽんと手を打った。


「そうか」

「なんだ?」

「お前マゾか」

「ちげーよ!」


 ひとり納得顔でうなずくテスターに、全力で否定の声を上げるリュート。


「俺は責務を果たしてるだけだ! お前みたいにうまく狩れないから、身体(からだ)張るしかねーんだよ!」


 自認しているとはいえ、己の無能ぶりを他人に話すのは嫌なものだ。

 一方、優秀なテスターはそれ故の鈍感さで、リュートの劣等感には気づいた様子もなく笑みを浮かべた。


「まあお前はとりわけ丈夫だし、それも長所の生かし方か」

「そういうこと。俺は俺のやり方で責務を果たす」

「熱心だねえ。女神様も喜ぶだろうよ」


 それは会話の流れで出てきた、特に意味のない言葉だったのだろう。

 しかし、


「別に女神のために動いてるわけじゃない」


 リュートは目を細め、テスターの言葉を訂正した。

 テスターが椅子の背に身体(からだ)を預け、げんなりと息を吐く。


「また始まったよ――どっちでもいいだろ。女神様の創った世界を(まも)ってるなら、女神様のために動いてるのと同じだ」

「違うね。少なくとも俺は違う。この世界が存在してそこで生きてるやつがいる以上、それを(まも)るのが俺たちの役割だ。女神のためじゃない」

「そういうこと、あんま声高に叫ぶなよ。俺は気にしないけど、学長に知れたらどうなるか。女神様至上主義を、骨の髄までたたき込まれるぜ」

「だろうな」

「本当に分かってるのかねえ」

「分かってるさ」


 誰よりも。

 脳裏に浮かんだ数々の光景を、いつものように抹殺する。


(しん)(ぼく)としての義務は果たしてるんだ、問題ないだろ」


 テスターの顔は問題ありと言いたそうだったが、それを彼が口に出すことはなかった。

 いや、正確には出そうとしたのだろうが、


「リュート様っ!」


 度肝を抜かれる呼び声が、テスターの動きを停止させた。


 彼だけではない。涼やかに通る声は、モーゼの海割れのように周囲の雑談を押し分け、聞いた者たちの言葉を奪った。

 続いて申し合わせたように、生徒たちの視線が集まる。呼び声同様涼やかな笑顔を浮かべて立っている、ひとりの少女に。


「よかった、補講前に見つけられて……初めましてリュート様。私、(たすき)()高校でリュート様のアシスタントを務めさせていただきます、セラと申します」

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