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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
139/389

2.くすぶる憎悪⑤ どうして理解できないのかと。

◇ ◇ ◇


 30分後。


「どう? なにか身体(からだ)に変化あった?」


 頭の鉄輪に突き立つ三本の(ろう)(そく)に手を()れ、山羊(やぎ)(どく)()を模した対価の首飾りを胸元で揺らし、フェースペインティングで(じょう)(こん)の陣が()かれた顔を、左手のミトンに縫いつけられた封魂の鏡に映しながら。

 リュートは半眼でうめいた。


「そうですね。なんかこう、ふつふつと込み上げてくるものはあります」

「本当? じゃあも少し待てば、もっとなにかあるかしら」

「ないですよ! こんなんどれだけ時間置いたって無駄ですから!」


 気づかれない皮肉が風にとける前に断言し、鉄輪を外して地面へとたたきつける。(すな)(ぼこり)を上げ転がる(ろう)(そく)を踏み砕き、リュートはツクバへと詰め寄った。


「俺マジで困ってるんですから、真面目にやってくださいよ!」

「失礼ね、あたしは真面目よ。真面目に知的好奇心を満たしてる」

「メイン俺じゃなくて好奇心(そっち)⁉」


 (がく)(ぜん)と頭を抱えようとし、指が不自由なことを思い出す。リュートはミトンから手を引き抜きながら、ぶつぶつとこぼした。


「だいたいこの封魂の鏡、でしたっけ? 百均で買えそうなくらい安っぽいですよ。ミトンに貼りつけてる意味も分からないし。なんの通販で入手したのか知らないですけど、こんなパチモンじゃなくてなにかないんですか。ほら、仰々しい儀式道具とか。それか印を結ぶとか呪文とか、それっぽい還元術」

「そんな力があったら、こんな道具に頼らないっての。別に還元術学ぶために研究会つくったわけでもないし。というか君、仮にも助力を求めてる身で文句多過ぎ」


 腰に手を当て、すねたように息を漏らすツクバ。封殺兵器使おうかしら、と小さく続けるのが聞こえた。


(やべ)


 慌てて口をつぐむ。知り合ってまだわずかな時間だが、リュートはすでに察していた。彼女の機嫌を損ねるのは非常によろしくない。


「あ、いやその……そういや、普段はどんな活動を?」


 傍らにある道具の山にミトンを投げ置きながら、機嫌を取ろうと話題を変える。

 リュートが研究会に興味を示した――ふりだが、もちろん――のに気をよくしたのか、ツクバはぱっと顔色を変えた。ここが一押しとばかりに指を立て、


(おも)だっては、契約霊媒師から提出された、報告文書の閲覧よ。(ざん)(こん)の未練や、生前の人物像などを調べるの」

「面白いんですか、それ」


 レポート課題でもないのに好き好んで報告文書――しかも自分の適性に関係のない――を読み込むなど、リュートには理解できない行為だ。

 しかしツクバには自明の()だったようで、こちらが眉をひそめたことに、逆に戸惑いの視線を返してきた。どうして理解できないのかと。


「もちろん。だって生命の循環から外れた、ひねくれ者の魂よ。未練という強い思いだけで、存在のルールすらねじ曲げてしまう。それってあたしたちには、決してできないことじゃない?」


 (しょう)(けい)にも似た色をにじませ、天を仰ぐツクバ。まぶしそうに細められた目は、空を越えてなにを見つめているのか。

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