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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
138/389

2.くすぶる憎悪④ ただ衝撃だけが通り過ぎていく。

(全然期待できねーな。無駄足だったか、くそ)

「あの、やっぱり俺――」

「そうね。やっぱり、オーソドックスなものから手当たり次第に試すしかないわね」


 やっぱり帰る、という言葉を、発する前にねじ曲げられる。

 ツクバはすくっと立ち上がると、


「んじゃ、外出るよ」

「外?」

「ええ、そっちの方がやりやすい。いろいろ試すならね」


 言い終えぬうちに、ツクバは隅にある段ボール箱を引っかき回し始めた。よりすぐったらしいなにかを、立ち上がったリュートに、振り向きもせず投げ渡してくる。


「はい、これ持ってって。あとこれも」

「ちょ、わっ」


 狙いが適当なため、こちらから手を伸ばさなければ()れることすらできない。

 あっちこっちに翻弄されながら、一抱えほどの道具をリュートが両腕に収めたところで、


「ほら、早く外持ってって。残りはあたしが持ってくから」


 ツクバがおざなりに、しっしと片手を振ってくる。


(なんだかなぁ)


 言われた通り外へ出るためブーツを履き――手が使えないため、()め具もろくに()めてないが――、自由な指先だけでなんとか扉を()ける。そのまま足を踏み出し、


「?」


 なにかを踏んで停止する。

 どかした足の下から出てきたのは、(かみ)(くず)だった。くしゃくしゃに丸められており、よくよく見れば……


(つーか、さっきツクバが捨てた張り紙じゃねーか)


 それが今ここに落ちているということは、つまり。

 リュートは疑似質量応用科学研究会――ギジケンの扉を見やった。そういえば研究会室にいた時、ギジケンの扉が()く音を聞いたような気もする。

 ギジケンから(ざん)(こん)研究会の扉へと視線をスライドさせ、そこまでする義理はないよなと思いながらも――結局、ごみというかなんらかの見苦しい怨念のぶつけ合いを()めるため、リュートは靴先で(かみ)(くず)を蹴り上げた。

 荷物を抱えたまま危なげにキャッチして、入れるにはやや大き過ぎる感のあるそれを、ぎこちない動作でポケットに()()やりしまい込む。


「なんで俺がこんな気苦労を……」


 ぼやきながら歩を進める。

 具体的にどこで待つかは聞いてはいないが、ここはグラウンドの一角だ。どこで待とうと大差はないだろうと、リュートは適当なところで足を()め、地面の上へと荷物を置いた。

 背筋を伸ばして待っていると、やがてツクバが研究会室から出てきた。なにやら液体の入った、バケツ大のボトルを両手に抱えている。

 リュートもツクバへと近づきながら、後ろの荷物を指さし、


「あ、先輩。荷物適当に地べたに置いちゃいましたけど、構わな――」


 たたきつけるような衝撃に、言葉が途切れる。

 視界はゆがみなにも見えない。

 鼓膜が捉えるのは、自分を揺さぶるひとつの音だけ。

 こちらの都合も感情も無視して、ただ衝撃だけが通り過ぎていく。

 そして。

 正面から問答無用になんらかの液体をぶっかけられたリュートは、髪から透明な液体をしたたらせながら、ただ一言、


「……なんで?」

「こーら。先輩にタメ禁止!」


 ボトルを片手に、ぽかりとリュートの頭をたたくツクバ。


「すみません。でもなんでですか? つかなんなんですかこれ」


 リュートは謝りつつ、自分の身体(からだ)を見下ろした。上半身まで、制服ごとべっとりと()れている。

 ツクバはあっけらかんと、


「聖水。安かったから、つい買っちゃったんだよね。でも使う機会なくて」

「で?」

「賞味期限、来週なの」

「賞味期限? 聖水に?」

「そういえば変ね」


 むしろなんで今まで疑問に思わなかったのか()いただしたくなるような(のん)()な口ぶりで、ツクバ。


(セシルのやつ、なんでこんなポンコツ研究会を認可したんだよ……)


 どんよりとよどむリュートの気持ちを知ってか知らずか、ツクバは楽しそうに、リュートの運んできた荷物をかきあさっている。


「そうね。まずはこれと……これもかな。あとこれ」


 彼女は幾つかの道具? を手に立ち上がると、こちらを振り返ってにんまりと笑みを浮かべた。


「さ、試しましょ」


◇ ◇ ◇

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