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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
132/389

1.垣間見える幻妖⑨ 悪魔の手足

「来いっ!」

「ちょ、待っ……」


 制止の声も無視して、彼女はリュートの腕を取ったまま、教室の外へと走りだした。


「お前、勝手に出てくんな!」


 声の感じから、今の明美の意識は、彼女のものでないことは分かっていた。

 彼女――女神はなおもリュートを無視して廊下を突き進み、反対突き当たりにある非常階段の扉を()けたところで、ようやく立ち止まった。

 女神に扉の外へと押し出されながら、リュートは毒づいた。


「なんなんだよ⁉ 俺は今お前に付き合ってる暇は――」

「貴様、()かれてるぞ」

()か……?」


 ぽかん、と口を()ける。

 女神は扉を閉めると、つかんだ左腕をこちらに見せつけるように、顔の高さまで持ち上げた。


「昨夜の(ざん)(こん)()かれてる」

()かれてるって、お前――」

「どうも貴様の身体(からだ)を利用して、未練を断ち切ろうとしているらしい」

「はあ?」


 さらなる突拍子もない言葉に、まじまじと自分の左腕を見つめる。たっぷりと時間をかけてまばたきをした後――リュートは、冷めたまなざしを女神に返した。


「……つまりお前が俺を(ざん)(こん)の前に突き飛ばしたせいで、こんなことになってんのか」

「難儀だな」

「謝れよちょっとは人として!」

「人ではない神だ」

「揚げ足取んな!」


 リュートは女神の手を振りほどいた。それができるほどに左腕の自由が戻ったことに、ほっとしたまさにその時――左足が勝手に動いた。


「なんっ……」


 罵声を上げる暇もない。

 はやるように後ろに踏み出した足は、階段を踏み外し、リュートは後ろ向きに階段へと投げ出された。背中からたたきつけられ、そのまま段差を滑り落ちていく。

 勢いを引きずったまま最後は後転し、壁に衝突してようやく止まった。


「くそ……がっ」


 壁に手を突き身を起こそうとし、その支えが突然消えて前のめりになる。

 なんのことはない。壁だと思っていたのは非常階段の扉で、内側からそれが()けられただけだ。

 扉を()けた女生徒が目を丸くして、こちらを見下ろしている。


「大丈夫? 落ちたの? なんかすごい音したけど……」

「大丈夫だ問題ない」


 リュートは早口に平静を取り繕ったが、すぐに破綻した。

 左の手足が女生徒を押しのけるようにして、校舎内へと動きだしたのだ。


「まっ……やめっ――馬鹿!」

「貴様なにをやっている!」


 非常階段を駆け降りてくる、女神の声を聞きながら。

 制御を失った左手足に引きずられるように、リュートは廊下を進んでいった。はたから見れば、ひどく不格好で不器用な走り方だ。


(どこかに向かっているのか……?)


 (ざん)(こん)は、明確な目的地をもっているようだった。もしかしたら女神のいう『未練』とやらに関係あるのかもしれない。

 いいように操られるのは(しゃく)に障るが、状況把握のために、(ざん)(こん)に従うべきか。

 迷っているうちにも、(ざん)(こん)は幾人もの生徒を追い抜き、すれ違いながら、リュートを引っ張り続ける。

 と、目に入る生徒たちがことごとく、なじみある顔ばかりであることにリュートは気づいた。


(クラスのやつら……? そうか、次は体育だから着替えに――)


 はっとする。

 (ざん)(こん)が向かっているのは、まさか。

 (ざん)(こん)は男子更衣室の前を素通りし、隣の部屋へとリュートを引っ張り込もうとした。クラスメートの女子たちが向かうのと同じ場所――女子更衣室に。


「それは、さすがに、まずいだろっ!」


 リュートは右足を、暴走する左足の前へと差し出した。当然足が絡まり合い、派手に転倒する。

 転がる身体(からだ)を、壁にしたたかに打ちつけ。


「なんなんだよ、畜生……」


 右手右足、とにかく全身を使って悪魔の手足を押さえつけながら、リュートは泣き言を漏らした。


◇ ◇ ◇

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