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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
127/389

1.垣間見える幻妖④ だいたいにして気に食わないのよ。

◇ ◇ ◇


「異常なーし」


 ライトで照らされた教室内をざっと目視し、テスターは入り口から乗り出していた上半身を、廊下へと引き戻した。


(むしろ異常があった方が、話が早くて助かるんだけどな)


 リュートたちは1階から、テスターたちは4階から校舎を見回っていた。例の――悪戯(いたずら)をするとかいう意味不明な――()(しん)に出くわせば少なくとも見回りに区切りはつくが、見つからなければそのやめ時も分からない。

 そもそも昨日(きのう)一昨日(おととい)と目撃されたから今日も出るのでは……という漠然とした期待で動いているのが、問題ではあるのだが……

 訓練校に戻ったリュートとセラが、念のためにとセシルに報告したところ、ひとまずは今夜様子を探ってこいと追い返されてきたのだ。


 その時テスターは帰校の途にあったので、駅で合流して本日二度目の登校をする羽目になった。セシルが校長に話を通してくれたので、夜間の学校を歩き回る許可は苦もなく得られたものの、やはりどうにもモチベーションは上がりにくい。


「1、2時間見回って、なにもなければ帰校ってのが妥当かな」


 聞き手を意識して吐いた言葉になんの反応もなく、テスターは居心地悪く振り返った。


「セラ~。お互いしゃべる相手は他にいないんだし、もうちょっとフレンドリーにいかないか」


 哀れっぽいまなざしを向けられても、セラは一顧だにしなかった。

 それでも忍耐強く待っていると、やがて口をとがらせ言ってきた。テスター同様、簡易ライトのついた携帯ブザーを向けて周囲を照らしながら、


「クロスボウで()ってきた相手に、そうすぐに心は(ひら)けないわよ」

「君だって俺に麻酔薬打ち込んだじゃないか。あれ、絶対致死量とか気にしてなかったろ」

「それをいうならテスター君。あの時、私のこと本気で殺そうとしてたでしょ」

「あー、そこ突いちゃう? 参ったなあ」


 実際言い訳のしようもなく、テスターは頰をかいた。


「だいたいにして気に食わないのよ。あなた、学長の手先じゃない」


 不機嫌そうに言い捨てると、セラは一方的に歩きだした。

 テスターは遅れないようついて行きながら、言い訳するように両手を広げた。携帯ブザーが傾き、照らす光が上を向く。


「今はなにも監視したりしてないって。むしろその役割は今、君のリュート兄ちゃんが担ってるだろ」

「それでも、学長になにを頼まれてるか分かったもんじゃない」

「その学長っていうの、つれなくないか? お父さんなんだろ? もっと親しくしても――」


 ()(かつ)な発言と気づいた時には、とっくに地雷を踏んでいた。

 セラがバッとこちらを振り向いた。拍子に豊かな金髪が跳ね上がる。自らのライトに下から照らされたその顔は、明らかに怒っていた。


「お母さんを殺して私たちを殺そうとしたやつに、どう親しくしろっていうのよ⁉」

「……そうだな。悪い」


 目を伏せ、謝る。

 セラは瞬間的に沸騰した感情を抑えるように、つり上げていた眉尻を下げ、


「別に。気にしない」


 苦々しくうめき、歩みを再開した。

 ひとまずはその言葉に(あん)()して、テスターはそれた話を元に戻した。セラの横に並びながら、


「でも俺本当に、君とは仲良くしたいと思ってるんだぜ」

「そう」


 着いた先の教室内を照らしながら、淡泊な(あい)(づち)を打つセラ。


「確かに俺の印象は悪いかもしれないけど、よく言うだろ? 昨日(きのう)の敵は今日の――」

「下僕?」

「友! 漫画とか読まないのか?」

「読んだことないわ」

「訓練校の図書館に少しなら置いてある。一度読んでみたらどうだ? 結構爽快な気分になれるもんだぜ」

「そうね」


 セラは一応検討してくれたらしく、少し黙り込んだ後、至って真面目な顔で聞いてきた。


「傲慢な神を八つ裂きにする、神殺しの話とかある? それなら爽快な気分になれそうだわ」

「……残念ながら、君のピンポイントな(めっ)(さつ)願望を満たす漫画は置いてないかな」

「そう」


 今度は明確に興味を失った様子で、セラが歩きだす。


(なんていうか、つかみどころのない()だよなぁ)


 この見回りが終わるころには、もう少し自然に会話が運べるようになるのだろうか。

 そんなことを思いながら、テスターも歩みを再開した。


◇ ◇ ◇

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