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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
125/389

1.垣間見える幻妖② 真面目な渡人としてはそれが正しいでしょ。

◇ ◇ ◇


 ざっ、と、アスファルトに転がる砂利に、靴底がこすれる。無音に支配された夜の学校では、そんな音すら大きな存在感を放っていた。

 頰に()れる夜気は心地いいが、長くこの場にとどまるには、やや冷え過ぎの感もある。

 無人となった(たすき)()高校の、正面玄関前。

 そびえ立つ校舎を見上げながら、最初に口を(ひら)いたのはテスターだった。


「なーんか、やる気()がれるよな。悪戯(いたずら)仕掛ける()(しん)なんて」


 軍服を模した青い制服にブーツ、対()(しん)用の()(けん)。リュートと同じ守護騎士(ガーディアン)の装いだ。

 テスターはぼやきながらも()(けん)の具合を確かめるように、剣帯へと手をやっている。

 対して、心底やる気がなさそうなのがセラだった。口をへの字に曲げ、


「本当。なんでこんな(うわさ)のために、時間外まで居残らなきゃいけないんだか。つくづく面倒くさいわね」

「俺だってめんどくせーよ。でも、お前がやる気満々で引き受けたんだろ」


 セラのあまりといえばあまりの物言いに、リュートは正当な抗議を込めて指摘した。

 しかしセラは、それこそ不当な責めとばかりに顔をしかめて見せ、


「真面目な(わたり)(びと)としてはそれが正しいでしょ。それとも『そんなアホくさい(うわさ)知るかバカ死ね』とでも言えばよかった?」

「だからなんでこびるか死ねかの両極端なんだよ」


 告げてから、注がれる視線の気配に、リュートは左へと向き直った。


「悪いな()(どう)。付き合ってもらって」

「大丈夫、そんなに遅くならなければ。お母さんには、友達と遊んでくるって言ってあるし」


 答える黒髪の少女――須藤(あけ)()はやや引きつった笑みを浮かべて、セラに目をやっている。

 やはり警護がしづらいということもあり、リュートとセラは数日前に、自分たちが兄妹(きょうだい)であることを明美に明かした。彼女は思ったよりもすんなり受け入れてくれたが、毒をはらんだセラの言動には、いまだに慣れないでいるらしい。


「で、どうするんだ?」


 当然のごとく答えを求めてくるテスターに、リュートは眉をひそめた。


「なんで俺に聞くんだよ。頭いいんだからお前仕切れよ」

「だって相談を受けたのはお前だし。それに年上はちゃんと立てないと、お前のしみったれたプライドが傷つくだろ」

「頑張ってお兄ちゃん! 普段はまるっきり(かい)()()えることのない、大人の威厳を示すチャンスよ!」

「よーしじゃあ早速年長者として、遠回しな嘲笑がいかに人を傷つけるかをレクチャーしてやろう」


 半眼で指を立てるも意気は続かず、リュートはくたりと手首を曲げた。重力に従って腕を落とし、


「まあとにかく、悪戯(いたずら)(うん)(ぬん)はこの際どうでもいい。万が一その話が本当なら、()(しん)はこの世界に物理的に接触したことに――つまりは顕現した恐れがある。そっちの方が問題だ」

「でもそれなら、須藤さんがいるのは危険なんじゃない? そりゃあ彼女の場合は、顕現だろうと(げん)(しゅつ)だろうと、脅威レベルは変わらないのかもしれないけど……」


 個人的な感情からか、セラが心配しきることのできない、複雑な表情で明美へと目をやる。

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