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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第3章 悔恨エクソシズム
123/389

0.兆候② 全てが自分の敵に見えてくる。

◇ ◇ ◇


 (しん)(いち)(ろう)は腹立ち紛れに、道端に落ちている空き缶を蹴飛ばした。街路樹に当てるつもりだったのだが、空き缶は見当外れの方へ飛び、車道脇へと転がり出た。

 ゴミにすら馬鹿にされている気がして、余計にいら立ちが募る。


(畜生! 生意気な、礼儀知らずなガキどもめ!)


 こっちは日曜にもかかわらず急な仕事を押しつけられて、鬱憤が限界までたまっているのだ。なのにあおるような言動ばかり見せつけられ、怒りで血管が切れそうだ。

 こうなると、全てが自分の敵に見えてくる。前方に待ち受けている横断歩道の信号も、どうせギリギリで赤になっていら立ちを倍増させてくるに違いない。


(あの手の(やから)は、今も昔も変わらない)


 肩がぶつかった女子高生はその高圧的な態度から、過去遭遇してきた中で一番嫌いなタイプの人間を思い出させた。要領よく人を利用し、時には虐げ、自分だけがうまい汁を吸う。


 思えば自分の人生は、そんなやつらに翻弄されてばかりの50年だった。今だってその類いの人間に召し使いよろしく利用され、顧客対応を終えてきたところだ。

 一月ほど前、口だけは達者ないまいましい無能上司が解雇された時は、久々に小躍りしたい気分だった(そういえば風の(うわさ)で、その無能元上司は強盗未遂容疑で逮捕されたと聞いたが本当だろうか)。


 せっかく目の上のたんこぶが消えたと思ったのに、また自分は踏み台にされている。そしてついには、社外でも馬鹿にされるなど……

 どうにも我慢がならなかった。


(畜生めが! 男の方もなんだあれは、髪まで染めてチャラチャラと。女の前でいいかっこでもしたいのか、青二才め!)


 怒りを持続させるため少年の姿を思い返し、ふと気づく。


(あの制服に付いてた校章……そうか、あいつは(わたり)(びと)の)


 記憶にあるデザインは上着込みだったので、先ほどは結びつかなかった。

 が、間違いない。ちらりと見えた襟の校章は、(わたり)(びと)が属する訓練校のものだ。

 どうしてあんなところに訓練生がいたのかは疑問だが、そういえばローカルニュースで、(わたり)(びと)の交流学生が近くの高校に編入した、と流れていた気もする。

 それつながりなら、(わたり)(びと)が地球人の少女と知り合いというのもうなずけた。うなずけるだけで、怒りは1ミリも収まらなかったが。むしろ(わたり)(びと)が生意気にもなにを、という気になって火に油状態だ。

 信号が点滅しだしたので、信一郎は早歩きに切り替えた。


(わたり)(びと)が出しゃばりやがって。あいつらなんざ、おとなしく鬼を狩る訓練に励んでりゃいいんだよ)


 歩行者用信号が赤になる。しかし、車両用信号はまだ赤になっていないのでセーフだ。


(くそ。俺も鬼みたいに力があれば、気に入らないやつらを蹴散らせるのに)


 実際になにかを蹴散らすジェスチャーをしていると、唐突に、耳をつんざくようなクラクション音が鳴り響いた。

 振り向くと目の前に車が迫っていた。


「え?」


 世の中への恨みつらみを吐き出している真っ最中に、(いそ)(ざき)信一郎のみじめな人生は幕を閉じた。


◇ ◇ ◇

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