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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第2章 共生のススメ
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5.立場の選択④ お兄ちゃんになにかしたら、許さないから。

 倒れた椅子を戻す余裕もなく、目の前の少女を憎々しげに見下ろす。


「あんた……なに勝手に出てきてんのよ」


 全力の敵意をぶつけられた少女――いや、女神は抱えていた木箱を机に置くと、(おっ)(くう)そうに肘をついた。額を手のひらに預け、挑発気味に言ってくる。


「須藤明美の意識は沈んでいる。無理に押し出てきたわけではないのだから、別に構わぬだろう?」

「構うわよ。あんたの存在自体が大迷惑。私たちを散々振り回しておいて、よくのうのうと出てこられるわね」

「迷惑という点では、貴様らも人のことはいえぬだろう。世界を滅ぼそうとした()(もの)が」


 相変わらずのふてぶてしさが、神経を逆なでするが。


(貴様()? 誰のことを言ってるの?)


 ひとりは当然自分だろう。ふたり目は、順当に考えれば兄のことを指しているのだろうが……女神の支配を拒絶したとはいえ、『世界を滅ぼそうとした』は言いがかりが過ぎるのではないだろうか。


(それとも、他の誰かのことを言ってるの……?)


 わずかに生じた疑念が、ボルテージの上昇を抑え込んだ。

 セラがその疑念を口にする前に、女神がひとり自己完結して目を細める。


「まあよい。私に(あだ)なす者には、相応の罰が下る運命だ」

「やってみなさいよクズ女神」

「今のうちに、兄妹(きょうだい)水入らずの時間を過ごしておくことだな」


 愉悦に満ちた笑みに、ぞくりとしたものを感じる。


「……どういう意味?」

「さあ?」


 空とぼける女神。

 セラは下唇を()み、(かな)(づち)を握る手に力を込めた。


「お兄ちゃんになにかしたら、許さないから」

「許さない?」

「そうよ、許さない。身をもって後悔させてやるっ!」


 畳みかけるように身を乗り出す。

 が、伸ばした左手が女神に()れることはなかった。

 無駄のない動きで立ち上がった女神が、こちらの手をすり抜けるようにして懐へと入り込んでいた。


「痛っ……」


 金髪を一束乱暴に引っ張られ、セラは顔をゆがめた。

 つかんだ髪束を頼りに身を手繰り寄せ、女神が耳元でささやく。


「かたくなに私の存在を拒む。貴様はひどく不愉快だ」

「お互いさまでしょっ……!」


 セラは幾本か髪が引き抜かれるのも構わず、罵声交じりに女神を突き飛ばした。

 女神は逆らわずに後退すると、それで終わりとばかりに机を回り、木箱を抱え上げて扉へと向かった。

 慌てたのはセラだ。


「ちょっと! どこ行くのよっ?」

「用事だ」

「用事って……」


 追いかけてくるセラを振り向きもせず、すたすたと女神が歩く。


「お前に構っている暇はない。どうしてもというなら、力ずくで()めることだな」

「言われなくとも――」


 女神の肩をつかもうとセラが近寄ったその時、女神は、ばっと振り向き木箱を投げつけてきた。


「……っ!」


 (かろ)うじて()けられたが、足がもつれて尻餅をつく。その間に女神は教室の外へと出てしまった。 


「ふざけた()()をっ……」


 セラは歯ぎしりして立ち上がった。なりゆきで握ったままだった(かな)(づち)を、しっかりと握りしめ。


(なにかしでかすつもりなら――殴り倒してでも()めてやる!)


◇ ◇ ◇

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