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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第2章 共生のススメ
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4.学校ウォーズ⑤ ……でもおかしいじゃない。

 本気度が伝わったのか、未奈美がグッと息をのむ。

 彼女は()されたように数歩下がると、それでも最後は踏みとどまってにらみ返してきた。


「剣を返したら、それであなたは鬼を殺すのよね」

「だからそれは――」

「地球人を(まも)るため!」


 いら立たしげに告げようとするリュートの言葉を、未奈美の声が遮る。


「そして地球人を(まも)るのは、共存のため! 分かってるわよ……でもおかしいじゃない。(わたり)(びと)は地球人と共存の可能性を探ってるのに、鬼にはそのチャンスすら与えられないわけ?」


 ひたむきなまなざしで問いかけてくる。自分の疑問は当然のことだと。

 ――そう、未奈美は間違ってはいない。狂っているわけでもない。

 だからこの目が苦手なのだ。狂っていれば、馬鹿なことをと一笑に付せられるのに。


「……堂々巡りの議論をする気はない」


 足を下ろして組んだ腕も解き、リュートは未奈美に一歩近づいた。


「勘違いするな。これは所有物を奪われたことに対する、当然の返還要求だ。倫理問題は関係ない」


 ギリッと口を引き結び、未奈美が一歩下がる。リュートは逃さないよう一歩詰め――


「――っ⁉」


 運動場の座標に、空間のゆがみが発生した。


(げん)(しゅつ)っ……)

「続きは後だ! そこにいろ!」

「え? ちょ、ちょっと⁉」


 戸惑う未奈美を捨て置き、リュートは駆けだした。教室後方の、窓際の扉から外へ出ると、真っすぐにグラウンドの一角へ向かう。

 その間にもスマートフォンのショートカットキーを用いて、セラとテスターに対処済みの連絡を入れるのも忘れない。


(にしても、さっき出たばっかだろ!)


 言っても仕方ないが、未奈美と話せるせっかくの機会を邪魔され、リュートはいら立ちながら()(けん)へと手をやった。いつも使っているのは未奈美に奪われたままなので、予備の()(けん)だ。

 予備だからといってなにかが変わるわけでもなく、カートリッジを挿し込めば、通常通りに血の(やいば)が具現化する。


「ああくそっ! あいつら、また性懲りもなく!」


 グラウンドの隅に、ちょっとした人だかりができている。着用している運動服からするに、野球部の集団だろう。

 リュートの転入初期よりはだいぶマシになったが、いまだに(げん)(しゅつ)時の()()(うま)は絶えない。


「どけ! 排除の邪魔だ!」


 声を張りながらブザーの警告音を鳴らし、リュートは()()(うま)を退散させた。


(っ……テスターに任せときゃよかった……)


 熱くうずく腹の傷に、後悔の波が押し寄せる。

 タイミングや位置関係などから総合的に見て、自分が狩るべきだと判断したのだが、これではいつまで()っても傷が治らない。

 ()()(うま)が消えたことで、()(しん)の姿が視界に入る。

 なにかを求めるように、ゆらゆらくるくると、方向転換を繰り返す巨体。そのサイズの割に先ほど視認できなかったのは、下半身が地面に透過しているからだ。顔一面を占める赤いひとつ目には、なんの感情も宿っていない。


(ここからならいけるか……?)


 (つか)を持つ手に力が入る。()(けん)(とう)(てき)して急所の《()》をうがてれば、こちらは無傷で排除できるが……


(……いや、現実的に考えろ。失敗したら後がない)


 潔く諦めて、正面からの攻撃に絞る。

 すでに()(しん)はこちらの存在に気づいている。数メートルほどまで迫ったリュートを威嚇するように、()(しん)は大きな拳を振り上げ――真下に振り下ろしながら、その身を丸ごと地面に沈めた。


(マジかよっ……)


 ()(しん)の中には、たまに頭の回るやつもいる。箱庭(こちらの)世界のものを透過するという、自身の特徴を漠然とではあるが理解し、それを利用して攻撃してくる個体だ。

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