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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第2章 共生のススメ
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4.学校ウォーズ④ 関係ないですよ、立場なんて。

「いえそんな暴力だなんて、誤解です」


 (りん)の腕から手を離し、両手を振って否定するリュート。

 しかし未奈美は、ゆゆしき事態とばかりに眉をひそめる。


「天城君。こういうことは加害者側には自覚がなくても、振るわれた側にとっては暴力だったりするのよ」

「突然車道に突き飛ばされたりとか?」

「とにかく、なんらかの対処は必要ね」


 リュートの皮肉は無視して、未奈美がきっぱりと言い放つ。

 (りん)がにやにやと笑うのを背後に感じながら――正確には勝手な想像だが、間違いないだろう――リュートはこの場を切り抜ける(すべ)を探った。

 教育実習生ができることなど限られているだろうが、この件が巡り巡って、権力をもつ排斥派の耳に届いたら多少厄介だ。


(取りあえず謝罪しとくのが無難か)


 (しゃく)に障るが仕方ない。

 リュートは気づかれないようため息をつくと、(りん)の方を振り返った。謝罪のために口を(ひら)き――


「――失礼、少しいいかね」


 割って入った声に、口を閉じる。予想外の介入に、3人そろって声のした方を向いた。

 声の(ぬし)は廊下側の、開け放たれた窓の外にいた。


「口出しするのはどうかとも思ったが、もめているようなのでね」


 温和な笑みを浮かべる、()()(れい)な印象の中年男性。生物担当の(すず)()だ。

 彼は廊下の窓枠に手を置くと、外に見える中庭へと目をやり、


「私はたまたま、外から一部始終を見ていた。しかし天城君が暴力を振るう様子は見られなかったよ。角崎君がなにか誤解しただけではないかな」


 鈴井は未奈美の実習を担当している。そんな彼に、さすがに彼女も異を唱えることはできず、


「……そ、そうですか。なら問題はないですね」


 ややぎこちない笑みで同意した。


「誤解が解けてよかったですよ、月島先生」


 リュートはここぞとばかりに、嫌みったらしく言葉をかけた。


「……ばっかみたい。呼びに来てやったのに、なんで私が気まずい感じにならなきゃいけないのよ」


 ひとり不服を隠さない(りん)が、ふんと鼻を鳴らして歩きだした。


「私、先に行くから。あんた絶対来んのよ!」

(どこにだよ)


 肝心の場所を告げずに去っていく(りん)に、内心突っ込みを入れる。今日は体育館の舞台が借りられると、演出の()(やま)(えつ)()が意気込んでいたから、たぶんそこに行けばいいのだろうが。

 (りん)の姿を見送ると、リュートは鈴井に頭を下げた。


「ありがとうございます、鈴井先生」

「私はどちらかというと擁護派だからね。君たちのつらい立場は、理解したいと思っている。あの様子だと、角崎君は排斥派かな」


 はははと笑う鈴井に、肩をすくめてみせる。


「関係ないですよ、立場なんて。ねえ月島先生?」

「え、ええそうね」


 振られて、慌てて調子を合わせる未奈美。鈴井から見えないよう傾けた顔からは、悔しさがにじみ出ている。

 リュートはぴんと来て、なるたけ殊勝に見えるよう話を切り出した。


「ところで俺、月島先生に折り入ってお話があるんです。少しお時間よろしいですか?」

「え? あ、いいわよ」


 体面上うなずく未奈美だが、すぐに、しまったと口に手を当てた。


「あ、でも私、鈴井先生に授業日誌の提出が……」

「構わんよ、後でも。生徒の話に寄り添うのも教員の務めだ。聞いてやりなさい」


 鈴井の許可に今度こそ逃げ場がなくなり、


「そ……うですね」


 観念したように肩を落とす未奈美。


「じゃあ、そこの視聴覚室で」


 リュートは、すぐそばの教室を親指で指し示した。


「では鈴井先生、失礼します」

「ああ」


 辞儀をするリュートに(おう)(よう)にうなずくと、鈴井は中庭へと戻っていった。

 リュートも押しやるように未奈美を促し、視聴覚室へと足を踏み入れた。

 教室の扉を閉めて電気をつけると、


「さあ月島先生。ようやくお話ができますね」


 腕を組んで未奈美を見据える。


「私、やっぱり用事が――」


 未奈美が退室しようと扉に近づくが。

 ダンッ、と靴底を壁にたたきつけ、リュートは扉への道を足で塞いだ。これ以上はごまかしが利かないと示すため、未奈美をぎろりとねめつける。


「俺の()(けん)返せ」

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