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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第2章 共生のススメ
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4.学校ウォーズ③ これはどうにも、相手が悪い。

 腕をセラに預けておとなしく待っていると、明美が大口を()けて、あくびを()(ころ)すのが目に入った。


「寝不足か?」

「え? あ、うん。ちょっとだけ」


 見られていたとは思わなかったのか、恥ずかしそうに口を閉じる明美。


「最近ハマった小説があるんだけど、シリーズがものすごく長くって。そういう時って複雑な楽しさだよね。たくさん読めるからうれしいけど、たくさん読まなきゃいけないから大変、みたいな。もう寝なきゃいけないけど、あと1ページだけが止まらないどうしよう、ページを繰るのすらもどかしいっ、みたいな」

「そうなのか? よく分かんねーけど」


 同意を求める彼女には悪いが、課題以外ではろくに本を読んだこともないので、いまいちぴんとこない。

 言っている間にも採血は進む。ホルダーに挿し込まれた採血管に血が流入していくのを横目に、リュートもあくびを()(ころ)した。


「――ちょっといつまでサボってんのよ⁉ 鈍臭いのは鬼狩りだけにしといてよね!」

(……相変わらず敵意全開なやつだな)


 リュートは半目で、声のした方――教室後方の出入り口を振り返った。


「血ぃ抜くだけなのに時間かけ過ぎだし!」


 ずかずかと乱暴な足取りで、女子生徒――(つの)(ざき)(りん)が教室に入ってくる。頭の上部で結んだ尻尾のような髪の一房が、荒ぶるように揺れている。

 (りん)は有無を言わさずこちらの腕を取ると、


「行くよウスノロ!」

「ぅわ馬鹿! まだ注射針がっ……」


 慌てて、腕に刺さったままの注射針を引っこ抜くリュート。変な場所に刺さったら、たまったものではない。


「それだけ採ればもう十分でしょ、ほら早く!」


 ()(ぜん)とするセラと明美の目の前で、(りん)はぐいぐいリュートを引っ張っていく。

 教室を出ると腕は解放されたが、代わりに凶悪なまなざしで()かされる。

 そのまま階段を下りて1階の廊下に差しかかったところで、見覚えのある顔とすれ違った。()(しん)を排除し、ちょうど戻ってきたところなのだろう。


「よっす」


 すれ違いざまに、片手を上げて挨拶するテスターを、(りん)は一瞬じっと見つめ、


「ふん」


 あからさまにそっぽを向いた。

 (りん)が排斥派ということを考慮しても、有り余る敵意。リュートは思わず口を(ひら)いた。


「お前、テスターとなにかあったのか? 今日会ったばかりなのに?」

「関係ねーでしょ! 黙って歩きな!」


 案の定すげなく返される。ご丁寧にグーパンチ付きで。

 リュートの左肩に打ちつけた拳をどけながら、(りん)が毒づく。


「ったく。なんだって私が、わざわざあんたを呼びに来なきゃいけないのよ」

「助演出だからじゃねーか?」

「うるさい黙れ!」


 (りん)が足を()め、再び拳を振り上げる。


「お前、そうやってすぐ暴力に訴えるのやめろよな。友達なくすぞ」

「余計なお世話よっ!」


 拳を振り下ろす(りん)

 しかし二度も殴られるほど、こちらもお人よしではない。リュートは彼女の手首をガシッとつかんだ。

 リュートがそれ以上のことをしないため、両者にらみ合ったまま、(こう)(ちゃく)状態へと突入する。


「ちょっと放してよ」

「お前が暴力的思考を改めたらな」

「だから余計なお世話だっての!」


 つかまれた腕に、ギリギリと力を込める(りん)。今度ばかりは引かないリュート。

 (りん)()(ころ)さんばかりに犬歯をむき出し、こちらをにらみつける。

 と、なにに気づいたのか、彼女はリュートを越えた背後へと視線をスライドさせた。


「先生助けて! 天城君が暴力を振るうんです!」

「この体勢でそれは無理あんだろ」


 半ばあきれてリュートは背後を振り返った。こんないちゃもんを信じる教員などさすがにいないだろう。


(……こいつ以外は)


 視界に入った彼女の姿に、あからさまに顔をしかめる。これはどうにも、相手が悪い。


「暴力? それは問題ね」


 しらじらしい口調で近づいてきたのは、月島未奈美だった。

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