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1明 なるべくシンプルな戦いにこだわる宿敵

 スーパーマリオってゲームがあるだろ。

 つまり、俺は今そんな感じの世界にいる。

 強いて言うなら、この世界のコンセプトはスモーク。そこらじゅうに、もうもうと煙が立ち込めていて数メートル先すら見えなかった。

 今はそれほどでもないけどな。


「ったく、残りの麺類パワーはどこにあるんだ。うどん、そば、きしめん、タンメン。ここまではゲット済みだ。そうめんは難しそうだからスルーとして、ラーメンは名前だけは聞くが少しも手がかりがないぞ」


 某スターのごとく、麺類パワーと呼ばれる謎の着ぐるみを集めていかねばならない俺。

 すると、見慣れないキャラクターが視界に入ってきた。


「しゅむしゅむ。ワテはヒッパリダコのヒッパル。もし時間があるなら、ワテに引っ張られて遥かな空からの眺めを味わいませんか?」

「空からか。なるほど、全体を見渡せば麺類パワーのありかが分かるかも。是非、頼む」


 タコの触手につかまり、俺はものすごい速さで空に振り上げられた。

 ざっと数百メートルは飛ばされたろう。

 俺は地道な努力でスモークが七割ほど晴れた世界を、空から眺めてみた。


「ほう。ラーメンパワーは、上からなら分かりやすいな。灯台もと暗し……始まりの城のてっぺんにある、いかにもな豚鼻ラーメンのシュレック風味がきっとそうだ」


 そうめんは白っぽいからか、空からでもいまいち見つかりそうになかったが、代わりにラーメンは見つかったというわけだ。


「またご利用ください。しゅむむ」

「ありがとな」


 しゅむしゅむ言うタコの化身に別れを告げ、俺は通常モードのペンギン形態から進化した。

 アニマル・トーテムと呼ばれる進化アイテムのうち、近場の怪しげな宝箱から出たコンドルのトーテム。

 これを取ることで、俺はコンドル・ペンギンというコンドルなのかペンギンなのか謎な状態になったのだ。


「飛ぶのは難しくて避けてきたんだよなあ。高い場所にある以上、見つからなかったのは当たり前だったか」


 ぼやきながら、俺はバサリと翼をはためかせた。

 ゲームで言うと、スティックだけでなくタイミングよくボタンもこまめに押さないとすぐに勢いが止まって落下してしまう難易度だ。

 それほどな難しさである代わりに、コツさえ掴めばラーメンまでは余裕で飛んでいけそうな感じはある。


「少し練習するか。……って、出たよ。またお前か」

「ジンジンジン。ニンジン・ニンジャのニンジニンさまが、またもソナタの邪魔をするぞな」

「なんで野菜なんてピンポイントなんだ。少しは麺類を見習わせてやる。今度こそ、な」


 折角だからと、いつものようにペンギンになりきって俺はニンジニンに挨拶をかました。


「よいか。死にたくなかったら、ソナタは拙者がニンジン・ソルティーグレネードを投げようとするたびに、タイミングよくジャンプしてうまく避けないといけないぞな。ただし、……」

「ああ、分かってるさ。親切なことに、まだ新技だからという理由で軌道はワンパターンだから、習うより慣れろ。そういうことだな?」

「ぞなにんにん」

「いつも思うんだが、それって相づちなのか不服なのか。まあ、いい。始めようか!」


 そこで俺は、コンドルに進化していられるリミットが来てしまった。


「ちっ。ペンギンでやるしかないか」

「ぞなにんにん」

「ま、まあいい。始めようかっ!」


 絶妙に格好が付かなかったが、相手はニンジニン。

 こいつはことあるごとに絡んできては戦いをけしかけてくる厄介なヤツなんだが、幸いなことに自他共に認めるワンパターン野郎だ。


「ぞな!」

「ふん。初手は決まってニンジン・スライディングキックだよな。流石に慣れたぜ?」


 俺はペンギン状態ではシンプルな移動とジャンプしか出来ない身で、スライディングを走って避けた。

 華麗に、とはいかない。

 ゲームでスーパープレイをするようなツワモノならば、そりゃギリギリまで引き付けて即座に反撃するだろう。

 だが俺は凡夫。

 せいぜい、隙を見て1分に一度、ケツからの突撃を食らわすしか出来やしないのだ。


「これなら、どうぞな!」

「どうぞみたいに聞こえるから面倒なんだよ。ニンジニンのそれ!」


 ニンジニンの基本行動パターンは2つ。

 ニンジン・スライディングキックまたはニンジン・ジャンピングアンドダウントゥランド。

 これは直進中距離移動キックと、単なるジャンプ踏みつけだ。


「おっとっと」

「にんにん!」


 ニンジニンはジャンプ踏みつけをしてきた。

 ニンジニンが分かりやくす隙を生む瞬間だ。なぜならニンジニンは、ジャンプ踏みつけの後から数秒程度は足が痺れて動けない。よって、そこをケツ突撃するのは造作もない。


「ほらよ」

「いたた。ケツをぶつけてくるぞな……」


 ニンジニンはよろけた。

 コイツはシンプルなヤツで、きっかり3回ケツ突撃を決めるとおとなしく退散していく。

 だから、あと2ケツぶつければコイツは倒せる。


「さあ、さあ。次はどう出るんだ」

「たまにはソナタから攻めてくるぞな」

「いやだ。俺は受け身なペンギンなんだ」

「ぞ、ぞなにんにん」


 ニンジニンは俺のドヤ顔に若干たじろぎながら、ニンジン・ソルティーグレネードを投げる構えをしてきた。

 持っているブツが明らかにバチバチ火花を上げる爆発性ニンジンなので、きっとそうだ。


「タイミングよくって、ぱっと見じゃ無理だろ。タイミング、お前次第だもん」

「じゃあ、最初だけは拙者の頭にニンジンのアイコンが出るようにするぞな。それでタイミングを勉強するぞな」

「チュートリアル付いてんのかよ。充実してんな!」


 俺はニンジニンの頭にアイコンが出たタイミングで、その場でジャンプした。


「いたっ。ダメじゃん」

「ああ、ごめんごめんぞな。後ろとか横とかに避けてほしかったぞな。お詫びに回復するから、頑張れ」

「お詫びあるのかよ。充実してんな!」


 思いっきり爆発して、体力が一気に半分以下になった俺に回復ニンジンが与えられた。

 俺の体力は一気に満タンだ。


「よし、来い!」

「タイミングよく後ろか横にジャンプするぞなよ。思ったより範囲が広いぞなから」

「それは、さっきチラ見したから知ってる」


 押し付けがましいほど親切なせいで、ゲームオーバーもなく俺はグレネードを攻略した。

 グレネードの後もなぜかニンジニンは硬直したので、遠慮なくケツ突撃。

 どうやらシンプルな上に滅多にジャンプしてこなかった最初期がヤツの全盛期だったようだ。


「まだまだ。まだ拙者はやれるにん」

「語尾がおかしくなってんぞ。さあ、とっととジャンプか爆ニンジンして来なよ」


 やけくそになったのか、ニンジニンは言われるがままにジャンプしてきた。

 普通に回避し、反撃ケツ。

 ニンジニンは降参した。


「いい戦いだったぞな。感謝ぞな」

「もう、いいよ。しばらく休暇取りなよ」


 ニンジニンはぎっくり腰になったのか、腰を押さえながらどこかに去った。


「ふう。改めてコンドルに進化すっか。よし。戦ってたから、トーテム復活してる」


 さっきの宝箱にリポップしたトーテムでコンドルに進化した俺は、やがてじわじわと高度を上げるコツを掴んだ。

 そして更に多少の時間を費やした俺はついに、始まりの城の屋根に到着した。


「ん。あれっ、ニンジニンまだやる気か?」


 そう。

 そこにいたのは、ラーメンを守護するニンジニンだった。


「くっくっく。よくぞここまで辿り着いたな。ソナタには、拙者の本気を見せてしんぜよう。ぞなにんにん!」


 ニンジニンはおもむろに、いつもより20倍ほど巨大になった。


「うおっ。ラスボスってことか。熱いじゃん」

「まあ、そんなところぞな。では、いくぞな」


 巨大ニンジニンはスライディングしてきた。

 初手はいつもと一緒だ。


「これって、まさか……」


 コンドルの力で羽ばたいた俺は、ニンジニンを避けて空中からケツ突撃をかました。

 そこで俺は確信した。

 ニンジニンはデカくても、ワンパターンをいなしてケツ突撃すれば倒せる、と。

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