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活字の中の妄想世界  作者: 東雲 良
第X章 活字の中の妄想世界
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X-8






 死以外の選択肢は、一見ないように思われる。


 しかし、だ。


「……なっ⁉ マジかおいっ⁉」


 緋灯恭哉が目を見開いてそんな風に叫び声を上げる。


 それは、あまりにも無謀な突貫に見えたかもしれない。




 無数の槍の下を潜り抜けるようにして、超低姿勢にした僕が突撃してきたのだから。




 体はびしょ濡れだ。多少炎に触れたとしても、大火傷には繋がらない。せいぜい皮膚の表面が炙られる程度で薄い水の膜が守ってくれる。


 拳を握る。


 慣れない暴力を振るう。


 狙うは顎。さっき真那枝から教わった通り、脳震盪を起こせる顎を全力で打とうとする。


「させ、るか‼」


「チッ‼」


 軽々と、であった。


 魔術師は片手で僕の拳を受け止める。そのまま手首を捻られ、河原の石の上に転がされる。尾骶骨を痛打するが、こいつに油断の文字はない。


 箒を輝かせ、今度こそ僕を殺害しようと試みる。


 だが。


「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あ?」


「魔力は流れないぞ、緋灯恭哉」


「ど」


「どうしてか? 魔術を繰り出すための『錬具』は誰にだって扱えるんだ。そして魔力は生命力を活性化させる特殊な深呼吸だけで精製する事ができる設定だったはずだ。さらに『錬具』には一人しか魔力を流せない。つまり」


 魔術師はどう思っただろうか。


 僕の指先が、赤の箒に触れているのを見て。


「……喰らえ魔術師、移動術式はこんな風にも使えるって事を教えてやる」


「あぶ、がっ⁉」


 箒が暴走したようにも見えただろう。


 しかし実際は緊急回避専用に調整された術式を僕が発動させただけだ。本来は殺生範囲内から脱出するためのものなのだが、それを相手にぶつければ恭哉の方が吹っ飛ぶ羽目になる。


 ゴロゴロと石の上を転がっていく恭哉だったが、あのローブとトンガリ帽子は近衛兵の持つ魔弾くらいならガードできる防弾性がある。この程度では傷一つ負わせる事も難しい。


「確かに驚いたがこれくらい……」


「良いのさ」


 相手は僕の書く物語の主人公だ。


 易々と立ち上がる事くらい想定内である。


 だけどな、緋灯恭哉。窮鼠は猫を噛むんだ。お前がコテンパンにされながら、多くの強敵を次々と倒してきたように‼


「……これで、僕の勝ちだ」


「あん?」


 そう、勝利条件は魔術師を僕と同じ状態にする事。


 ローブだけじゃない。




 河の中まで吹っ飛ばされて。


 全身がびしょ濡れになっている事に、果たしてその馬鹿は気付いたか。




 そして僕はこうオーダーした。


 ずっと通話中のままポケットの中に入っていたスマートフォンに向けて。


「真那枝、手筈通りに」


『オッケー、歩夢』


 直後に響く。


 魔法の言葉が。


『降り注ぐ雷撃の弾丸よ、避雷針はこの剣なり。導き出したるは光速、衝撃の覇者はこの雷雲の持ち主にして汝、走りたまえ雷光よ‼』


 一度の詠唱で、次の深夜一二時まで無制限に魔法を使える『灰被り殲滅(シンデレラバースト)』。


 これがどうして幼馴染の海原真那枝に宿っているのか。


 簡単な話だ。


 僕が幼馴染の許可を取らずに、彼女の下の名前だけ借りて小説を書いたからである。もちろん出自や言動はまるで違うものだが、真那枝の名前はそうあるものではないし、性格はかなり似ている。モデルになっているのは真那枝なので当然と言えば当然だ。


 僕は炎の熱さ以外の理由で顔を真っ赤にしながら、それでもこう告げる。


「……科学を知らないんじゃ現状のヤバさも分からないだろう。大サービスで教えてやるよ。どれだけ離れていても、真那枝の高圧電流なら伝導率の高い水の中なら一気に河の魚を全部殺す事だって可能だ。となると」


「っ‼」


 やはり主人公の本能か、危険を察知した恭哉のヤツが川の中から飛び出そうとする。


 でもどれだけお前が速くても、流石に。




「……光の速さに勝てるほど俺TUEEEに設定したつもりはねえぞ。あんなクソつまらねえもんを僕が書くとでも思っているのかクソ魔術師‼‼‼」




 青白い紫電が真っ暗な河を彩った。


 花火が弾けると同時、最強の魔術師はパタリと水面に向けて倒れて行った。





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