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活字の中の妄想世界  作者: 東雲 良
終章
17/18

戦った騎士に愛ある逢瀬を






「事実は小説より奇なり、なんて上手い事言ったヤツがいたもんだよなあ」


「なに歩夢。あなたの趣味を今から根掘り葉掘り質問して欲しいの? 悶えたいの? 死ぬの?」


「夢の国でそんな罰ゲームやめてっ‼」


 そう、夢の国だった。


 頭にはよく知らないけどネズミの耳と猫の耳が乗っている。人生でカチューシャなんて生まれて初めて着けたけど、これは随分と随分な感じだ。素直に言うと恥ずかしい。さっきトイレに入る時は周りの視線を気にして外してしまったし。


 休日であった。


 約束していたテーマパークで僕と海原真那枝は隣で歩いてチュロス片手に次のアトラクションを待っていた。


「真那枝、僕は絶叫系が苦手なんだけど」


「サービスで手を握ってあげても良いわよ、怖がりさん」


「素直に嬉しいけどロマンチックな雰囲気に絶対ならないよね、それ」


「歩夢と今ロマンチックな雰囲気になったらなんか嫌だからこのタイミングなのよ」


「ならアトラクションの最中は良いや」


「にゃうあ⁉」


 猫耳をつける可愛過ぎる幼馴染が中身まで猫になった。


 僕がいきなり手を摑んだから当然かもしれないけど。流石の剣道少女もチュロスで人の頭を殴ったりはしないだろう。お菓子で片手が塞がっているから無理矢理引き剥がす事もできない。ふはっはー! どうだこの僕の悪魔的思考は‼ 少し本気を出せばこんなものよ‼


「今握って勇気をチャージしておこう」


「あ、ああ、あなたね……ッ!」


「ただでさえ苦手な遊園地を一日中付き合うんだ。僕にだって楽しむ権利はある」


「アトラクションを楽しみなさいよお……」


「メリーゴーランドに今から直行するなら我慢するけど」


「うう、もう良いわよ、好きにして……」


 部屋の中だったら押し倒している台詞であった。照れ隠しなのか、髪を払う仕草がまた可愛い。痣なんて一つもない白くて綺麗な首筋に心臓が跳ねる。


 ジェットコースターに乗ってお昼の休憩を挟もうとなった時だった。


 オープンカフェのテラス席でクラブサンドイッチとコーラを注文して、食事が出てくるを待っている時、こんな声が僕の背後から聞こえてきた。


『ご主人様ぁ』


 こんな呼び方をするヤツは、僕の知り合いの中では一人しかいない。


 後ろからしなだれかかるように、べったりとくっついて僕に胸の感触をこれでもかと主張してくるのは、偶然にも創り上げてしまった人工神体である。灰色の肌に薄い緑色の髪。人間離れした容姿の少女に、僕は適当な調子で話しかけた。


「ストリヴァ、足が浮いてる。ちゃんと着地しておいてくれ。変なアトラクションかと思われて写真を撮られるぞ」


『むっすー』


「ごめんって。でもみんな神様なんか見た事ないんだ。パニックになったら僕と一緒にいれないだろ」


 まずはこの現象を分析する。だから科学部に所属する僕が真っ先にストリヴァに提案したのは、一緒に暮らす事だった。


 まるで背後霊のように、時間を共にする。


 そして世界に彼女が利用されないように、今度は僕がストリヴァを守る。何度も守ってもらったんだ。願いだって叶えてもらった。身から出た錆を綺麗にしてもらっただけのようにも思えるけど、自分が生み出したものを守りたいと思うのは当然だ。


 理由はいらない。


 世界に挑め。


 ……僕の気持ちなんか知らないだろう。知る必要もない。彼女は幼い子どものように足をジタバタさせながらこう言うのだった。


『まあご主人様の願いなら何でも叶えますが。はい着地。むうー』


「ほら、コーラ飲む?」


『んむー』


「どうして口移しスタイルなんだよ、やる訳ないだろ。ストロー使え」


『んちゅー』


 人工神体・ストリヴァのご機嫌が直ったと思ったら、目の前の別の少女の方がご機嫌ナナメになった。


 彼女も彼女でコーラのコップを握り締めながら、お行儀悪くストローを齧りながら言う。


「楽しそうで何よりね」


「真那枝、お前もこいつに構ってやってくれよ。友達がいないんだから母親代わりになるとかどうだ」


「友達と母親がイコールで結ばれている違和感はあなたにはないのかしら」


「どうして不機嫌なんだ」


「今日は私とお出かけしているんじゃないのね、ふうーん。歩夢は私よりもストリヴァちゃんと話す方が楽しいのね、へえーえ」


「……」


 あれ?


 これは脈ありとかだったりするのか? ヤキモチにも見えなくないのが余計に変な期待をさせてくる。


 分からない。幼馴染検定二級は持っていると思っていたのに、それでもこの子の感情が全部分かる訳じゃない。


 考えて。


 分析して。


 そうやって一歩一歩進んでいく。まるで原稿用紙を一つ一つ埋めていくみたいに。


「……ほんと、真那枝は読めないよ。あんな事があったんだ、僕の事をぶん殴ってもう一緒にいたくないって思うのが普通の反応だ」


「何よいきなり。面倒臭い女だって話じゃないでしょうね」


「分からないっていうのは、知りたくなるって事なんだ」


 伝えたい事がある。


 小説やラブレターみたいに文字も良いけど、でもやっぱりこうして会って話せるんだ。


 せっかくだから、言葉にしよう。




「だから大好きだ。そういう話だよ」




 後ろで女神様がガッツポーズした。


 だけど、野暮な事は願わない。


 こればっかりは、自分の力で叶えてみせる。





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