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廃墟  作者: 小石沢英一
6/8

鉄扉

朝のテレビは時計代わりでもある。天気のコーナーが終わると登校時間だ。


「どうした? 元気ないぞ」


父親が言った。


「あっ、ちょっとね……」


「そりゃ、熊坂君の事は心配かもしれないけど、お前は受験生なんだからもっとしっかりしないと!」


「わかっているよ。あいつに殺人が出来るはずがない」


 父親は黙って頷いた。


警察も事件に進展がないようだ。


そう言えば岩野はどうして昨夜こなかったのだろう。悲鳴が気になる。地下に秘密でもあるのではないか。しかし、廃墟の病院に気軽に行けるほど度胸はない。


 このまま何もしないのが安全である。しかし、じっとしていられない。出来る事は岩野に連絡を取る事だ。住所は知っているので、学校の帰りにでも行ってみる事にした。


 自転車に乗って、岩野の自宅を目指した。閑静かんせいな住宅街だった。


すぐに自宅は見つかった。門が立派だ。壁も高く、中を見なくても庭が広いと想像が出来る。庶民感はなく、金持ちである事は確定だ。


僕はチャイムのボタンを押した。


だが、スピーカーから返答の声すら聞こえない。何度もしつこく、チャイムのボタンを押すが、無反応だ。


 留守か。


僕は諦めて帰ろうとした。


「何かご用ですか?」 


スピーカーからではなく、生の声だ。


 僕は振り返った。そこには二十代後半の女性が門の前でいつの間にか立っていた。


「岩野さんのお宅ですよね?」


「はい」


 女性は警戒しているのか、無表情で答えた。


「い、岩野進さんいらっしゃいますか?」


「ウチの人なら昨日から、帰っていません」


 その言い方でこの人は岩野の奥さんと推測した。


「昨日からですか」


「はい」


「どこにいるか、わかりますか?」


「わからないですね。だけど、もしかしたら、会社かもしれません」


「それじゃ、連絡先を教えて下さい」


 僕は奥さんに色々と聞きたいが、高校生の身分で聞くのもはばかれた。会社の電話番号を聞くのが精一杯だった。



『お世話になっております。岩野コーポレーションでございます』


 女性が出た。声は若い。二十代に聞こえる。途中で噛む事なく、スラスラ言われると僕は緊張した。


「あの、野村って言う者ですけど、岩野さんに連絡したいんですけど……」


『社長ですね?』


「そうです」


『あの、今日はまだ会社に来ていないんですよ』


「そうですか、それじゃ、いいです」


 僕はすぐに電話を切った。岩野は会社にも出社していなかった。


 気になる事は昨日、僕に連絡があった。今は自宅にも会社にもいない。大人が一日くらい連絡が取れなくても、失踪したと思われないが、魔物の餌食になっていないことを願うだけだ。


 まだ事件にはなっていない。


やはり廃墟の病院の地下が気になった。手がかりはあそこにしかない。


 警察に通報するしかない。しかし、理由が思い当たらない。


 どうする?


 無茶とわかっていても行かないと、先に進めない気がした。


 昼間だし、大丈夫か。と、高をくくる。


 とは言え、地下には懐中電灯が必要だった。自転車のライトが壊れていたので、前かごに懐中電灯はあった。


 また、来てしまった。廃墟の病院に来ないと誓っても、引き寄せられた。これが運命の巡り合わせなのか。


 地下だけ見たら退散しよう。廃墟の病院に入る前から、懐中電灯を点灯させた。


 踊り場から階段を下りる頃には暗く、昼夜も関係ない。


 長い廊下の左右に個室部屋がある。閉鎖前は何に使用していたのだろうか。想像するだけで悪寒おかんがする。


 鉄扉にぶつかった。霊安室だ。


 ドアを開けるのを僕は迷った。中に魔物がいたら一大事だからだ。深呼吸をした。


 ゆっくりとドアを開けた。


「ほら、何もいないじゃん」


 ドアが閉まる音が響いた。


 僕は室内を見ていない。目をつぶっていたからだ。


耳から入る情報だけが頼りだ。異音はしない。


 僕はゆっくりと右目だけ開けた。懐中電灯の照らした先には壁が見えるだけだ。


「やっぱりね。何もいないな」


 僕は右目を開けたり、閉じたりしながら、ゆっくりと右回りで照らした。鉄扉が見えた。もう半分まで確認した。喉が渇きを感じたが無視して、回った。何もなかった。少し、目が回ったので、後退りした。


「ん?」


 僕のかかとに何かが当たった。振り返り、懐中電灯を地面に向けた。


 固まりがある。じっくり照らすと、人型だ。


 僕は驚いて、腰を抜かし、その場に尻餅をついた。


 岩野が横たわっている。顔は透明な粘膜のような物で覆われていた。


 蝋人形。

.

 だと、どんなによかっただろうか。生命反応はありそうもない。


 声は出ない。恐怖でそれどころではない。一刻も早く、この場を立ち去りたいのだ。


 立ち上がるが、方向感覚は失われていた。前のめりに倒れそうになるのを押さえて、進んだ。


 何度も壁にぶつかった。混乱し、本能だけが頼りだ。


 脱出した。


 それに警察まで呼んでいた。所々、記憶がない。それだけ切迫していた。

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