魔界クッキング
魔法があったら料理はもっと発展すると思う。軽く調理法縛りで考えてみました……そして何故かラブコメになりました
魔界にはお昼に放送される人気の料理番組がある
今日もテレビの画面には、調理台の奥に背が低い黄色い優男と背の高いスレンダーな女性がにこやかに並んで立っている
どちらも二十歳くらいに見える外見だが、これでもこの番組を三十年間続けているベテランだ
お馴染みの軽快なBGMと共に二人の顔にカメラが寄ると、大きなテロップが映し出された
【三十周年特番!視聴者ランキングレシピ!?】
どうやら今回は特番みたいだ、嬉しそうな魔女の挨拶で番組が始まった
「みなさんこんにちは、メモの準備は出来ていますか?今日は見逃したら後悔しますよ!」
「大賢者と」「魔女の」
「「魔界クッキング!」」
「本日は特番ということで、これまで作った料理の中でも、特に好評だったものを再度調理したいと思います」
「と言うことは、マーメイドちゃんの女体盛り…」
「ありません」
「……下半身がタコのスキュラちゃんの…」
「選外です」
「マミーちゃ…」
「エッチな料理はやりません!」
「なんでだよ、やれよ!一時期キャラが掴めずに迷走してた魔女さんみたいに、ちょっとエッチなコスチュームくらい着ろよ!」
「次その話をしたら、大賢者さんを料理しますよ」
「ええー、でも背伸びしてブカブカのボンテージを着た魔女さんは可愛かったぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「さて、大賢者さんがこんがり焼けた所で、本日のメニューを紹介して行きたいと思います」
スタッフがヤムチャってる大賢者にポーションを流し込む
カメラに映らないように移動して手当てするあたり、手慣れている感が半端ない、よくある展開なのだろうか
「……う、うぅ、無詠唱でやりやがった」
「先ず一品目は、海鮮きのこサラダです」
「ハァハァ……よ、用意する材料はこれだ」
復活した大賢者が材料が書かれているフリップボードを置くと、画面にテロップが表示された
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材料(二人分)
レタス 二枚
玉ねぎ 1/4玉
魔界テングダケ 100g
羅生河豚の肝 一つ
調味料各種 適量
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カメラが調理台に並べられた食材を一通り映すと、横へ移動して魔女が持っているサラダにズームインした
「そして出来上がった物がこちらです」
「ちぎったレタスや玉ねぎにスライスした肝と焼いた魔界テングダケを乗せるだけとは言え、少しは調理する所も映そうぜ」
全くである、どうやらこの番組は料理番組というものを分かっていない
肝は氷と日本酒で〆ないと生臭さが残るのに、そういう下拵えを完全に飛ばしているのだ
「でも、これだけだとまだ食べれないんですよね」
「スルーされた!」
「つべこべ言わずに魔法を使って下さい、また焼きますよ?」
「イエスマム!『上級解毒魔法』」
「このように、食べる前には上級解毒魔法で解毒して下さいね」
「この河豚ときのこは美味しいんだけど、ドラゴンでも即死する猛毒だからな」
「ここで豆知識です、なんと人間界では……この猛毒の二つを解毒魔法を使わずに食べてるそうです!」
「マジか?凄いな人間、どんな胃をしてるんだ」
「テレビの前のみなさんは解毒してから食べて下さいね、私達は人間程丈夫ではないんですから」
……毒のまま食べているような言い方だが、勿論そんなはずはない
多分言っているのはベニテングダケと河豚の卵巣の事であろうが、どちらも毒抜きして食べる加工方法があるだけでだ、間違ってもそのまま食べたら人は死んでしまう
どうやら魔界では、人間界の事が曲解して伝わっているようである……ひと昔前までの日本のように、海外からは侍や忍者が居ると思われていたようなものであろうか
「ただし毒無効のアミュレットを持っているなら、そのまま食べる事をすすめる、少し舌がピリピリするが、毒有りの方が旨味が強いからな」
「当番組では一切のクレームを受け付けておりませんので、自己責任でお願いしますね」
魔界ならではのジョークである……多分
「次の料理はミノタウロスキングの岩石焼きだ」
「今日は特番なので、特別に若いミノタウロスキング……別名ミノタウロスプリンスのお肉をご用意しました」
いつの間にか調理台の上が片付けられており、サラダの代わりに美味しそうな肉の塊が置かれていた
「おおー!キングの幼体なんてよく用意できたな?俺ですら数回しか食べた事ないのに!」
「ふっふっふっ、特番ですからね……と言いたい所ですが、実はこれ養牛なんです」
「いやいやいや、ミノタウロスキングを家畜化なんて出来ないだろ?どれだけ狂暴だと思ってるんだ、俺だって苦戦するんだぞ」
「それが出来るんですよ……人間界では、ですが」
「また人間か、どんだけ凄いんだよ!」
「聞いた話では、ミノタウロスプリンスを二百万頭以上飼育しているらしいです」
「ミノタウロスキングが二百万頭って、魔界なら大国だって滅ぶぞ!」
「流石にキングになる前には殺してるみたいですよ、『王子ビーフ』って名前で統一しているみたいですから」
「それ全然慰めになってないぞ!俺は絶対に人間界には行かないと決めたからな、どんな修羅の国なんだよ!」
……王子ビーフではなくオージー・ビーフである
そしてまかり間違ってもミノタウロスではなく、普通の肉牛だ……佐賀牛なんかも、ミノタウロスのSAGA(武勇伝)として伝わっていそうである
「まーまー落ち着いて下さい、それより時間も押してますし料理の方をお願いします」
「むしろ落ち着いている魔女さんの方がおかしいだろ?えーと、岩石焼きだっけ?……これだな、材料はこれだけだ!」
ガサゴソと調理台の下を漁ると、フリップボードをトンと置いた
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材料(二人分)
王子ビーフ 1kg
野菜 お好みで
調味料各種 適量
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「やる気の欠片も見えない分量ですね……お好みや適量って、本当に大賢者さんは料理番組を舐めてますよね?」
「詳しい分量は本に書いてあるから、知りたい奴は買うように、1980でお買い得だ」
酷い料理番組である
「印税は私が美味しく頂きますので、ジャンジャン買って下さいね」
「また俺んちに酒を漁りに来るのか……弱いくせにハイペースで飲んで、俺のベッドを占拠するのは止めてくんない?」
「だが断る!大賢者さんは無料で飲み食い出来て、宿泊まで出来る居酒屋に行ったことがないからそういうことが言えるんですよ!」
「全額俺の負担だから止めろって言ってんだよ!」
「泡銭泡銭」
「泡銭じゃねー!」
じゃれ合いを始めた二人に、ADが用意していたスケッチブックを広げて見せた
【イチャイチャしてないで料理しろ!】
カメラにも映る位置で掲げるあたり、いい性格をしているようだ
正直もっとやれと応援したくなった
「「イチャイチャなんかしてない!」」
ペラっとスケッチブックをめくるAD
【息ぴったりじゃないか、もう結婚しろよお前ら】
「……今日は二人分なので肉は半分に切るぜ、調味料は付与魔法を応用して付ければ、内部まで均等にまぶせるぞ」
「調味料を付けたら外部からゆっくりと石化させていきます」
「ここで注意点だが、中心は石化させない事!だいたい四分の一は生のままじゃないと美味しく出来ないからな」
更にペラっとスケッチブックをめくられた
【スルーしやがった、このヘタレめっ!】
このAD、完璧に二人の性格を見抜いているようだ
「つ、次は石になったお肉を焼いていきます、強火だと割れてしまうので、弱火でゆっくり熱して下さい」
【テレビの前の皆さんも御一緒に、それヘタレ!ヘタレ!ヘタレ!】
ADがスケッチブックを上下させるタイミングに合わせて、収録現場にヘタレコールが沸き起こった
凄い一体感だ、今みんなの心は確かに一つになっている気がする
「うるせーよ!『初級火炎魔法』」
【あちぃぃぃぃぃぃぃ!!】
頭を燃やされたADに他のスタッフが駆け寄ってポーションを飲ませる
悲鳴を書いてたという事は燃やされるのまで分かっていただろうに、何故煽った……だがあえて言おう、よくやった!お前は本当によくやった!後はゆっくり休んでくれ
「お肉を焼いている間に付け合わせも作って行きます」
「野菜のポーション煮だな、野菜を回復させながら温めるから、本来は温野菜に向かない野菜や果物も食感を損なわず作れるぞ」
「今回はリンゴとプチトマトをご用意しました、温めると糖度が上がって美味しいんですよ」
「そうこう言ってる内にステーキの方も良さそうだな、皿に盛って……よし、後は程好く冷めたのを確認して食べる直前に石化を解除してやれば、肉汁を中心に封じ込めた逆ミディアムレアステーキの完成だ」
「本来はサイコロステーキでやる調理法ですから、テレビの前の皆さんは一口大に切ってから調理して下さいね……大賢者さんがガッツリ食べたいのでこの大きさなんです」
「大きいのは正義だからな、仕方がない」
念のために言っておくが、これは高身長の魔女へ言った言葉ではない
「私は小さいのが好きなんですけどね」
これも大賢者に言った言葉でもない
ただし、周囲から聞こえる舌打ちは二人に向けたものである
「さて、次が最後の料理か?」
「はい、最後はデザートですね、楽しみです!」
大賢者がごそごそと調理台の下を漁ると、顔をしかめてフリップボードを置いた
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材料(二人分)
プチスライム 十匹
テキーラ 一瓶
果物 お好み
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「果実酒ゼリーはデザートなのか?」
「果物が入っているからデザートです、ケーキだってお酒が入っているのがあるじゃないですか」
「これはケーキの中にお酒が入ってるんじゃなくて、お酒の中に果物が入っているゼリーだよ!」
「細かい事をうだうだと……そんな事を言うなら私も言わせて貰いますけどね、大賢者さんのお家で飲む時、チラチラと私の胸やパンツを見るの止めてくれません!」
「なっ気付いて……ち、違うからな、お前の色気の無い下着が見えて気が散っているだけだから」
「色気ありますー、いつもオキニ着けて行ってますー」
………………いい加減料理してくれませんかね!
「「は、はい!」」
「え?今の誰?」
「分からないけど逆らわない方がいいぞ、寒気が止まらないから……ほらスライムを取ってくれ」
「あっうん」
魔女から一口サイズのプチスライムが入ったボールを受けとると、大賢者はその中にテキーラと刻んだ果物を注ぎ込んでシャカシャカと混ぜた
「プチスライムを使う際は、最低でも二日は流水に漬けて泥抜きをするように」
「雑食ですからね、お店で買った物でも必ずした方がいいですよ、変な虫とか食べてる可能性がありますから」
「使う前に一時間程重しを乗せて水抜きをしてやると更にいいぞ、吸収効率が良くなるし、何より体液で薄まらなくなるからな」
「説明している内に、もうほとんど吸い込んじゃいましたね、一回り大きくなって美味しそうです」
「後は冷やせば完成だが、ここで注意点が一つ、今回はテキーラを吸わせたので問題ないが、普通に果汁だけで作る時は冷やし過ぎると凍るからな、冷凍はするなよ」
「テキーラの場合は冷凍庫で冷やしても凍らないので、むしろ冷凍庫で冷やしましよう」
「アルコール度数が高いと表皮だけパリパリになって、中身はトロトロで美味しいんだ、是非試してみてくれ」
「あーもー堪りません、早く食べましょう!」
「いや生放送だから果実酒ゼリーは食べさせないぞ」
「大丈夫です、私はお酒強いですから!」
「毎回すぐ酔って抱き付いてくるくせに、信じられるか!」
「それはワザと……あっ」
「…………」
「……」
「よし、時間になったから今日はここまでだ!」
「次回は風魔法で燻製の煙を対流させた、燻製ピザです、楽しみにしておいて下さいね」
「「それでは、また明日ー!」」
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テレビの電源を切ると、執務室に静寂が訪れた
珍しく暇だったのでテレビを見ていたのだが、あれは酷い、早急な対策が必要だろう
私は机に備え付けられた電話を取り、秘書に繋いだ
当たり前のようにワンコールもしないで受話器は取られ、堅物そうな男性の声が聞こえて来た
《何用で御座いましょう》
「お主は魔界クッキングという番組を知っているか?」
《はい、セッ◯スしないと出れない部屋に閉じ込めたい芸能人No.1の二人が出演している番組ですね》
「……そんなランキングがあるのか」
《私見のランキングで御座います》
「そ、そうか……だがそれなら話が早い」
《閉じ込めて宜しいのですか!ならば早速…》
「早まるな!無理矢理はいかん、無理矢理は」
《っ!……申し訳ございません……念願叶うと思い、気が急いてしまいました》
「う、うむ、それでだな、あの二人を人間界に行かせたいのだ」
《人間界にですか?それはまた何故で御座いましょう》
「永らく交流が無かったせいで、人間界を誤解している風潮が広まっているのを感じてな、これを機にそれを払拭したいのだ」
《その為に二人を人間界にですか》
「そうだ、人間界のグルメ巡りでもやらせて番組として流せば、膨れ上がった誤解も解消するだろうからな」
《……分かりました、手配致します》
明らかに落胆した声を出す秘書に、思わず笑みが溢れた
「まー待て、話は終わっていないぞ」
《と、言われますと》
「その番組のディレクターには、今日燃やされたADを起用するように伝えろ」
《そ、それは、まさか!》
「番組は二人が結ばれるまで続ける事、ADにはくれぐれもバレないように企画を考えろと伝えるように」
《ははー!勅命賜りました!》
「では良きに計らえ」
《御意》
受話器を置き、テレビに目をやる
電源が落とされたテレビには何も映ってはいないのだが、私には二人の慌てる姿が見えるようで、胸がわくわくしてくる
あのADなら、きっと私が思う以上に二人を上手く料理してくれる事だろう
今から放送が楽しみだ
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材料(二人分)
大賢者 1人
魔女 1人
グルメ 適量
ハプニング 少々
トキメキ お好みで
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長い年月ヘタレ続けた二人を素直にさせるのは、きっと並大抵の事ではないでしょう……ですがADさんならやってくれるはずです、秘書さんみたいな協力者も沢山居るのですから。
尚、二人が引っ付いたらネタバラシの特番があります。
良い雰囲気になるギミックの数々や、収録外の隠し撮りに、告白シーンが全国放送で公開される予定です。