12.後輩との特訓
空が既に夕暮れを通り越して夜になってもまだレルフリシラの騎士学校の首席を目指す特訓は続いていた。
「ソレイア。もう夜ですがまだ続けるのですか?」
俺はキュリーに指摘されるまで全く時間について考えていなかったが、その言葉で今のおおよその時間が気になり空を見上げた。
「本当だ。もう空も暗くなってたんだな。レルフリシラはまだ続けたい?」
「……二時間くらい前からもう帰りたいって思ってました」
「え? レルフリシラも楽しいものだと思ってたんだけど……新しい魔法を作るなんて普通は楽しいだろ?」
「それはソレイア先輩が変態だからですよ」
そんなバカな!? 俺は一般的なことを言ったつもりだったんだけど!?
「それに魔法が苦手な私が自分自身を透明化する魔法陣を二時間位で構築出来るようになっただけでも大きな進歩ですよ……」
「何を言ってるんだ? そこがスタートラインだってさっきも言ったじゃないか」
「スタートラインが私にとっては遥か先にあったんですよ! ……でもソレイア先輩が教えてくれたおかげで異常な速度で透明化の魔法陣の構築を出来る様になりました。やっぱり異常な変態に教えてもらうと成果も異常ですね!」
……一言多くない? 素直にありがとうで良いんだよ?
「……褒めてる?」
「褒めてますし感謝もしてますよ?」
「そうだよね! 俺は褒められてるんだよね!」
「ソレイア。単純過ぎです」
取り敢えず今日の特訓はレルフリシラが終わりにしたいらしいからここまでにしよう。
「じゃあまた明日も特訓するよ。あと二週間位で対象物の透明化魔法の完成を目指して頑張ろう!」
「はい! 頑張ります!」
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レルフリシラの特訓を開始して二週間が経ち、試行に試行を重ねてようやく新魔法の開発の目処が立っていた。
この二週間の間で光魔法だけに限定するなら、かなり早い速度で魔法陣を構築できるようになるまでにレルフリシラは成長していた。
でもやっぱり、魔力量が低いのは相変わらずだな……。こればっかりは鍛えたらどうにかなるものでもないからどうしようもないけど……。
「後はレルフリシラだけでも完成させられそうだね」
「はい! ありがとうございました!」
「そういえばレルフリシラは何で首席になりたいの?」
「首席になると箔が付くからですよ? 今後の将来が安泰になるっていうのが一番の理由ですかねー」
へぇー。そんな特典みたいなのがあったのか。将来のことなんて考えたこともなかったしなぁ。
「ソレイア先輩こそ元首席なのに、何がしたいとか無いんですか?」
「色々な魔法を応用させることが楽しくて、それを形にして実戦で使ってたらいつの間にか首席になってただけだしなぁ。それに今は自分のやりたい事……やらないといけない事があるから」
「ソレイア先輩のやりたい事っていうのは何なんですか?」
「……妹を家に連れて帰ることかな」
レルフリシラはいつもの毒を吐くときのような訝し気な顔になると、
「妄想上の妹さんですか? それとも手頃な子をお持ち帰りするとかじゃないですよね? そういうのはキュリー先輩だけにしといた方がいいですよ?」
「……あれが全部妄想だったら良かったんだけどな……」
あの朝の事が全て俺の妄想だったらどれだけ良かったことか……未だにまだ夢の中にいるんじゃないかって想像することもあった。そんなこと想像しても父さん達は生き返らないし、前に進まなければルネすら永遠に失うかもしれない……。
「……私が首席になったら特訓をしてくれたお礼に、妹さんを連れて帰るお手伝いをしてあげるのでそんな顔しないで下さいよ。あ!でも誘拐とかは手伝いませんからね?」
俺の様子を察してくれたのか、いつもとは違った優しい言葉を掛けられて俺は内心驚く。
レルフリシラは間違いなく根は良い後輩だった。いつもこのくらい良い子だと見た目もかわいいので惚れていたかも知れない。
「ありがとう。そのときはお願いするよ」
「任せてください!」
「ソレイア。私も居ますよ」
「キュリーもありがとうな」
「はい。任せてください」
「もちろんソレイア先輩は私が首席になるまでサポートしてくれるんですよね?」
俺ももちろん最初からそのつもりだったのでその点については何も問題はない。
「当たり前だよ! 今度は何の魔法をアレンジしようか考えよう!」
「お、お手柔らかにお願いします。」
そうしてまたレルフリシラの為のオリジナルの魔法を編み出す特訓が始まったのだった。
次の話で大きく時間が飛びます。ご了承ください。




