14.スランくんのこころ
ナロウくんは、あ、とこえをあげました。
まさしくいま、きがついたのです!
スランくんが『だれかのブクマをひっぱがして、もってきてほしかったんじゃないか?』といってきて、おもわずないてしまったときのこと――
スランくんは、こういってあやまってました。
『おまえは、そんなやつじゃないの、わかってたのに、ごめん』と。
そのときには、ちゃんときづかなかったけど、これは、ちょっとへんです。
あのころのスランくんは、ナロウくんとあったばっかり。
ナロウくんがどんなこかなんて、よくはしらないはずです。
そういえば、そのすぐあとにも、いってました。
『おまえには、じつりょくがないわけじゃない。
そこはこのオレが、ほしょうする。』
これも、いまおもうと、やっぱりへんです。
スランくんはナロウくんのしょうせつを、まだよんでいませんでした。
なのに、じつりょくをほしょうなんて、できるわけがありません。
でも、そういうことなら、なっとくです。
ソラさんは、ナロウくんのせいかくも、じつりょくもしっています。
そんなソラさんのこころから、スランくんがうまれてきたのなら……
スランくんがソラさんとおなじように、ナロウくんのことをわかっていても、ひとつもふしぎじゃありません!
ひとつぶ、ふたつぶ。
ナロウくんのめから、なみだがこぼれはじめます。
そうだ。そうだった。
スランというなまえだって、ふたりでかんがえたヒーローのもの。
ふたりだけがしっている、だいじなだいじな、なまえじゃないか。
ナロウくんはやっと、おもいだしました。
スランくんは、ソラさんのこころからうまれてきた、ようかいだった。
そして、ソラさんのかわりに、ぼくをたすけてくれたんだ。
じぶんは、ほんのいっときのいのちとしりながら、あかるくわらって、いっしょうけんめいに。
ナロウくんはやっと、そのことをしりました。
スランくんはというと、ふたたびソラさんをみおろし、しずかなこえでいうのです。
「こいつは、あといっしゅうかんもすれば、たいいんできるだろう。
そしたら、やきもちなんか、きえてなくなるだろうな。
おまえはぜんぜんにんきのない、ていへんさくしゃのまま。
『ミッドないとクルセイダーズ!』も、ぜんぜんすすんでない。
それもこれも、こいつをまちわびてのこと。
――やきもちなんか、きえてなくなる。
そうしたら、オレもきえてなくなる」
そうしてスランくんは、かおをあげました。
きれいなあかい、ふたつのひとみが、せつなくナロウくんをみつめます。
「だからせめてそのまえに、ラストがよみたいんだ。
だれよりも、いちばんさきに。
オレが、だれよりあこがれてる『さくしゃ:NAROU』の……
いちばんだいすきな『ミッドないとクルセイダーズ!』を、いちばんによみおえたいんだよ!」
けれど、スランくんはすまなそうに、あたまをさげます。
「ごめんな、ひどいこといった。
そんなひどいこと、やさしいおまえに、できるわけ、ないのにな。
オレのいのちをたすけるために、ソラのきもちをうらぎるか――
ソラのきもちにこたえてやって、オレをけしさるか――
そんな、ひどいせんたく、できるわけがない。
かえろう、ナロウ。
いまきいたことは、わすれてくれ。
オレはしばらく、おまえのへやにはいかないから……」
きびすをかえしたスランくんですが、すぐにおどろいてたちどまりました。
だれかが、ぎゅっとうでをつかんでいます。
それは、けついのひょうじょうの、ナロウくんでした。
「じゃあ、あした。
またこのくらいのじかんに、ここにきて。
きみはソラさんをおこして、ふたりでまってて。
いい、ぜったいだよ。ぜったいだからね!!」
スランくんがぽかんとしてると、ナロウくんはぱっとはしりさっていきました。