第0夜 出会いは突然、必然、偶然②
藤丸先輩が席から立ち、ドアを開けるとそこにはサイドに髪をまとめた少女がいた。少女は不安そうな表情を浮かべている。
藤丸先輩は
「やあ、はじめまして新人さん。私の名は藤丸。ここオカルト部ではシュヴィブジックと呼んでもらっている。よろしくね。」
と気さくに話しかけていった。気さくなのは良いことなんだろうが、初めてオカルト部に来た人に魂の名と名乗ってもよくわからないと思う。
「あ、えっと、1年の河西です。よろしくお願いします。」
「さあさあ、中に入って。」
河西さんはおどおどとしながら部室に入り、円卓にいる全員から注目を浴びながら先輩が座るように誘導した扉から1番手前の席に座った。
先輩も再び自分の席に着き、早速話し始めた。
「さて、河西さん。君は…ふむ、なるほど。恋愛を成功させるおまじないを探すためにこの部活に入ったのか。」
河西さんは喫驚し、
「…!な、なんでわかるんですか!?」
と言った。驚くのは当たり前だ。何せ先輩は一度も新入部員の部活に入った目的を見抜くことに失敗していない。私も入部最初にやられたし、これで驚かない人間はいるのだろうか。
「君も驚いているね。これは私の使い魔である精霊のヴィイの力さ。何でも見通すロシアの精霊。どんなに遠くの場所でも、あるいは人の心の中さえも、ね。
何、恥ずかしがることは無い。そういう理由で入ってくる人は他にも結構いるのさ。」
キルシュ————桜もきっかけは憧れの先輩が好きで恋が実るおまじないを探すためにはいったはずだ。ちなみに私は面白そうだったから、あとかっこ良さそうだったからこの部活入ったのだが、中二病を自覚してから複雑な気持ちになっていった。
「あの、ゔぃい?ってなんですか?」
「んー説明したいのは山々だが時間もないから自分で調べてほしい。探求することがこの部活のモットーだしね。さて、では君に魂の名を示そうと思う。」
「魂の名って何ですか?今の河西綾が本来の名前じゃないてことですよね?」
河西さんは首を傾げながら言った。
「ああそうだ。私はシュヴィブジックという名があるように殆どの人間が魂に名を持っている。その名を使うことで本来の自分の記憶を無意識に取り戻し、『自分』を知ることができる。まあ、あとは魔術の成功率を上げたり出来る。だからこの部室ではなるべく魂の名で呼び合うようにしているのさ。」
「…わ、私の本来の名はなんですか?」
河西さんがそういうと先輩は目を閉じ、ブツブツと何かを呟いていた。おそらくヴィイと話しているのだろう。
やがて先輩は目を開き、
「ふむ、これは珍しいな。君の魂には2つの名があるようだ。1つは魂が生まれた時の名、『ミカ』、そしてもう1つは幾多の転生の中でその魂の在り方を変えた時の名の『マリア』だ。」
と言った。
「『ミカ』と『マリア』、ですか。」
「さあ、君はどちらを選ぶ?君のしっくりする方を選ぶと良い。」
先輩は微笑みながら河西さんに問う。
河西さんは深く考えるように目を閉じ、そして再び目を開けた。そして
「私…私はマリアを選びます。今の魂の在り方はマリアですから、最初なんて関係ありません。」
とまっすぐな瞳で答えた。
先輩は満足そうに頷くと
「うん、素晴らしい答えだ。決断をいきなり迫られてもきちんと自分とは何かと考えられる、非常に優秀だね君は。」
と言った。
「あ、ありがとうございます。」
「さて、新たな仲間のマリアの歓迎会と行きたいが…あいにく生徒会から急かされている案件があってね。あとで魔術課、伝説課、宇宙課のどれかから所属する課を決めてもらおう。マリアはそうだな…ミルフィー、ちょっと良いかい?」
そう言って1年の原田さんもといミルフィーを呼び出した。
「何ですか、先輩?」
「ここにどんな課があるのか、どんな特徴があるのかをマリアに奥で教えてくれないか?本来なら私が務めたいんだがあいにく会議が入っているんだ。」
「わかりました。えっと河西さんだよね。マリアって呼んでも良い?」
「え、あ、うん!私もミルフィーって呼ぶね!」
「じゃあこっちに来て。奥で教えるから。」
そう言ってマリアとミルフィー、もとい河西さんと原田さんは部屋の奥へと消えていった。
その状況を見ていた先輩は私たちの方に向き直り、
「さて1年生の挨拶も済んだことだし、本日の本題に入る。
生徒会から急かされている案件というのは今期からの役職についてだ。
本来、3年生である私は退部していることになっているのだが、まあ私は物好きだからここに遊びに来ていると言うことだ。だが、私が退部する時にきちんと後継の人を決めていなかったため、今現在この部活には部長がいないことになっている。
だから今の2年生の中から部長を1週間以内に決めなくてはいけないんだ。」
つまり私たち2年生の中から部長を決める。誰がこのオカルト部を取り仕切っていくかと言うことだ。
この部活には私や桜を含め魔術課に3人、伝承課に2人、宇宙課に2人の2年生がいる。
部長を挟んで隣にいる桜を見てみるとやる気に満ちた顔をしていた。
私はめんどくさいし、やりたくないと考えていたから立候補制ならほぼ桜で決まりだろう。
だが、藤丸先輩の次の言葉で私は困惑し、桜も同様に一驚した表情を浮かべた。
「そこで私はルーチェを推薦する。」
なぜ私が推薦されたのか大方予想はついていたが、
「一応ですが、なぜ先輩は私を推薦したんですか?」
と聞いてみた。
「それはもちろんヴィイが才能を見抜いたからだ。ルーチェ、君には才能がある。魔術を扱う才能がだ。その才能を生かしてこの部をより発展させてほしい。」
先輩がにっこりと笑って恐ろしいことを言う。だってほら、その奥の桜の顔が怖い。
誰も反論どころか声すら出さない。これはまずい、このままだと私が本当に部長になることが決定しそうだ。
普通ならば断っても良いのだが先輩がヴィイに聞いたと言うとみんな納得してたとえ本人が拒否しても事を進めるだろう。
先輩は周りを見渡し、
「他の課は異論あるか?」
と聞いた。
「いえ、俺たち宇宙課は特にありません。」
「伝承課も希望者がいないので大丈夫です。」
よし、じゃあ決定かなと先輩が言いかけた時、
「待ってください!」
と桜が言った。
「なんだい、キルシュ。」
「私も部長になりたいんです。ルーチェよりもやる気はあります。」
「へえ、キルシュがそんなにやる気になるなんて。だが、やる気だけでは認められないよ。厳しいこと言うようだけど君には魔術やこのコミュニティーを統一するほどの才能はない。諦めた方がいい。」
先輩に冷たく言われるものの桜は引かない。
「でも…!」
「悪いが君の前世はただの村娘だ。魂の経験も才能もない人には残念ながら部長の座は譲れない。」
「だけど、私は村長の娘でした!父の姿なら何度も見て…いま…す?」
藤丸先輩は目を見開き、そして沸き起こる笑いに耐えながら言った。
「へえ?無意識に過去の記憶を引き出したか。ふふふ、なるほど。よし、ではこうしよう。ルーチェとキルシュには部長の座を賭けた戦いを行ってもらう。」
「はい?」「はい!」
私たちは正反対の返事をしていた。無理もない、やる気からもう差がある。
もちろん私は絶対にやりたくない。
「よし、では2人には残ってもらって他の人は活動に行って構わない。私はマリアにどの課に入るのか聞いてこないと。」
そう言って部長が席を立つと他のメンバーもそれぞれが活動に戻るために部屋の本を読んだり、PCを使うため部屋から出て行ったり、奥へ消えていった。
「さて、2人には課題を与える。それはどちらが優れた使い魔を召喚出来るかだ。期限は1週間後の部活の日だ。いいね?」
あ、これはいい。絶対失敗出来る。今まで成功した事がない。
というか普通は出来ないし、やらなくてもいい気がする。
「ああ、決してサボらないでくれよ?『ヴィイ』は視ているからね。」
…どうやらサボろうとしていることを見透かされたようだ。
「よしルーチェ、勝負だね!」
とりあえずわかったのは、桜がやる気に満ち溢れているのと、私には拒否権がないことだった。
遅れてすいません。
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