第0夜 出会いは突然、偶然、必然①
お久しぶりです。
今日は寒くなってきた秋の中頃にしては珍しく暖かい。小春日和とでもいうのだろうか。
こんなに暖かく、気持ちのいい日には悪魔もそこら辺で寝てそうだ。
私の名前は羽鳥咲。
羽鳥家の長女であり、一族で最上の魔力量を持つ最新の魔術師だ。
この身に宿った力を使い、次世代へと我が一族を存続させるのが目的なのだ—————。
などという設定を作りながら毎日を過ごしていたこともあった。
お陰で今では私は中二病を自覚しているオカルト好きなただの中学生だ。
私の家から学校までは遠く、電車を使っている。しかし同じ路線を使っている人がクラスメイトがいなかった。その結果がこれだ。
元々私はあまり人と関わる性格ではなく、友達も多い方ではない。
まあ、1人の登校時間を楽しく過ごす手段でなおかつ想像力も鍛えられるのでいいと開き直っているのでかなり重症だと思うが。
もちろん、このままだとイタイ人になるのはわかっている。
今は中学2年なのだからまだ許されるだろう。
だが今は10月の終わり頃であり、あと5ヶ月ほどですぐに中学3年だ。
そう、半年もないのだ。5か月と聞けばそれなりに時間はあるようにも見えるが時間が経つのは早い。
早い所治したいものだ。周りが見えていなかった時に入ったオカルト部を今年度でやめた方が良さそうだな。
と考えていると突然後ろの方から肩を叩かれた。
「咲ちゃん!」
振り向くと肩を叩いて、声を掛けてきたのはクラスメイトであり、私の数少ない友人である宮水桜だった。
「あ、桜おはよう。」
「おはよう。」
桜はやや茶髪の髪をいつもおさげでまとめていて、一見すると運動部にも見えるほど活発な女の子だ。実際スポーツはなんでも出来るし。
しかし桜は私と同じオカルト部に入っている。
彼女も私と同じようにオカルトを信じ、魔術を使いたいと考えている中二病だ。
「そういえば今日は理科があるね。授業分かりにくいし、書く量も多くて嫌だな。」
「そう言って咲ちゃんは勉強しているでしょ?特に今は咲ちゃんの好きな物理分野だしね。」
「昨日は新しい魔術書を見つけて読んでたから何もしてないよ。」
いつものように学校や部活について話しながら歩いていると10分くらいで学校についた。普段は10分かからないくらいで着くのでゆっくり歩きすぎたのかもしれない。
ということは、
「やあ、おはよう。桜、咲。」
「「おはようございます。」」
やはり見つけられてしまったか。
今、私たちの目の前に現れたのは我らがオカルト部の部長である藤丸先輩だ。
よく周りにいる「使い魔」と話しているのだ。
もちろん私たちには見えないので本当にいるかどうかもわからない。
だが、まるで自分を客観視したように感じたので、私が中二病を自覚した原因の1つだ。
ただ、たまにまるで心を見透かしたような発言をしてくる。だから正直私は藤丸先輩が苦手になっている。
「2人とも、今日の部活はもちろん来るだろう?」
「もちろんです!ね、咲も行くよね?」
もっとも、桜は藤丸先輩を好いている。藤丸先輩は魔術にも伝承にも長けているため師匠とか呼んでいる。
「はい、行きます。」
部活自体は楽しい。部活のメンバーで新しい魔術書を見て実際に魔術を使ってみたり、神話を調べて本を作ったり、宇宙の不思議を天体を観測して考えるなどを行なっていていい。
何より部室に入れば先輩も後輩も関係なく話すことができる。
「うんうん、真面目でよろしい。今日は次期部長を決めないとだから全員出席してほしいからね。それじゃ、また。」
先輩はそう言って去っていった。
「そろそろ教室行こっか。」
「そうだね、咲。そろそろチャイムが鳴るから急がないと。」
基本的にこの学校は1教科2時間の1日3教科がある。だから好きな教科の時は時間が長くて嬉しいが、嫌いな教科だと地獄のような時間を過ごすことになる。
最初の理科は電気分解装置を使っての実験だ。水酸化ナトリウム水溶液を用いて電気で酸素と水素に分解させた。班員でそれぞれ体積や炎を近づけた時の反応からどちらがどっちなのかを調べた。ついこの間までは教室での授業だったからそんなに面白くなかったが、実験は楽しい。あっという間に時間が過ぎていった。
次の社会は最も苦手な授業だ。まず、先生の説明がわかりにくく図も多量に使ってくる。ノートに書き切る前に次の説明に行っているもんだからほぼ予習前提みたいな物だ。ただ今日の内容は「日本の国土の広がり」。つまり小学生でやったことが多い。まだマシな方だ。
それでも覚えることは多いが。
給食はみんな大好きカレーライスだ。クラスの男子のほとんどと数人の女子がいつもより遥かに早く食べ終わり、おかわりをする。私が食べ終わる頃にはもうなくなっているから代わりに大根サラダを食べる。
いいもん、大根サラダの方がツナが入っていて醤油との相性も相まって美味しいし、ヘルシーだし。
そして最後は数学。
数学は割と好きな方だが図形だけは別だ。
錯角や同位角を学んだが、意味がわからない。いや分かることには分かるのだが同位角はともかく錯角は普段の日常生活で使うものなのか?今の私にはさっぱり思いつかない。例え使うとしてもわざわざ習わなくてもいい気がする。同位角と対頂角の2つがわかっていればいらない。
そして教室の掃除も手短に終わらせ、ようやく放課後に入った。
「ようやく終わったね…。」
「そうだね、やっと部活に行けるよ。集合時間何時だっけ?」
「あ、咲ちゃん!あと3分で始まっちゃう。」
「え、急がないと!」
ここから部室へだとゆっくり歩いて5分かかる。このままだと間に合わない。
私たちは自分たちのクラスのある2階から急いで部室のある3階に駆け上がり、誰もいない廊下を走り抜けていく。
そして廊下の1番奥にある「オカルト部」と書かれている看板の掛かった扉を開け、薄暗い部室の中に転がり込んだ。
「遅いじゃないか、2人とも。」
「「す、すいません。」」
最初に声をかけてきたのは円卓の奥に座っている黒いローブを着た藤丸先輩だった。
いつもは着ないが会議がある時には部長や課長はローブをそれぞれ着る。
「まあ、いいよ。新入部員が来る前に来たのだからまだセーフとしようか。」
「こんな時期に新入部員ですか?」
新入部員の多くは4月、遅くても5月までに入るのがほとんどだ。だからこの時期に入る人は普通いない。
「ああ、1年生が先日入部届けを出してきてね。さあ、座って待とうじゃないか、ルーチェ、キルシュ。ああ、私の正面は空けておいてくれ、新入生の場所だ。」
と言って円卓の空いている自分の両側の席を指差した。円卓には部長の他に宇宙課、伝承課の課長とそれぞれの課から出席した次期課長候補がすでに座っており、魔術課の私たちの席と新人の子の8席があり、急いで座った。
ルーチェ、それがここオカルト部での名前だ。同じく桜にはキルシュという名がある。オカルト部では本名とは違う名前を付けられることがあり、今は藤丸先輩が付けている。先輩曰く、使い魔である「ヴィイ」が視た魂の名を言っているだけだそうだ。ヴィイとは全てを見透かす目を持つロシアの精霊で先輩はその精霊と契約した…らしい。
何度も言っているが私たちには見えないので信じることは難しい。しかし藤丸先輩の心を見透かしたような
発言はヴィイの影響と考えると腑に落ちてしまうので信じてしまう。
席に着くとすぐにドアを叩く音が聞こえた。
「おや、ようやく来たようだね。」
「無力な俺に暁を(完結済)」もよろしくお願いします。
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