寒い片思い
歩きながら大好きな歌を口ずさむ。
誰かが近くにいても聞こえないくらいに適度な大きさで。
下手くそなビブラート響かせて心いっぱいに歌う。
あなたが好きだと
あなた以外なにもいらないと
そんな人物どこには居やしないのに。
ただただ暗い空を眺めながら口ずさんで。
寒くなった秋風に身を震わせて、
ただ虚無感を感じながらやっぱり同じ歌を口ずさんで。
もう何年も前だろう。
そう思えた人物が居たのは。
その相手も新しい相手と仲良くしているとSNSで知った。
ただ自分だけが止まっているのだろうか。
むしろ退化しているのだろうか。
好きだった相手と知り合ったのも昔ながらの文字だけのチャットだった。
文字だけなのに人の良さが出ていた。
落ち着いた大人な雰囲気があり、ユーモアがあり、お茶目な人だと。
そして何よりも心優しさが表れていた。
自分は若く、恋愛経験も少なかったせいもあったかもしれない。
すぐに惹かれてしまった。
とても魅力的だったんだ。
頑張って口説いた。
口説いて「ネット上で」のお付き合いをした。人によっては笑うだろう。
でも自分は真剣だった。
相手とは9歳差だった。自分の年齢を言った時向こうには驚かれた。
もっと近いと思っていたと言われた。
そう思われるように必死に大人ぶってた。
相手のように人を思いやれるように、余裕を持ってるように、そう作った。
けどやはり心は幼かったんだな。
足りなくなった。必死に必死にアピールして…逆に相手に困惑を与えてしまっていた。
ストレートに言葉を伝えた時は断られてはしまったが、
相手の優しさで、お前のことは大事に思っていると言われて嬉しくなってしまって。
若かったんだ。
そう言い訳させてくれ。
3年間歪な片思いを続けた。
歪だった。
「ネット上」では「好きだ」と言い、言われながら一方通行な片思いだった。
優しい言葉をもらう反面泣いていた自分を相手は知らないだろう。
体温の温もりを知らないまま、愛しい人から言葉だけの温もりを貰う虚しさを私は忘れないだろう。
ただただ、好きだった。
純粋に好きだった。
体調悪いくせに相手にどうでも良いような愚痴を言われても何でも無いように優しい言葉をかけ、
相手が調子悪そうだったらワザとふざけて笑わせて、
自分の身や身内に不幸な事があった時もこっちにあまり心配かけさせないようにしてて、
でも恐る恐る頼ってくれた時とか、
つい私が小説やゲームにハマりすぎて連絡がおろそかになった時にやっと見せてくれたちょっとだけの嫉妬心とか
ほんと、ほんと好きだった。
文字だけの付き合いだったけど
ほんとうに、本当に好きだった。
彼(彼女)だけはどうか幸せに生きて死んでほしい。
またこのネット上であなたを見る日が無くなるかもしれない。
けど、ほんとうに幸せになってほしい。
あなたが幸せていてくれるのを願うばかりだ。
そんなことを思っていたら帰路についた。
ペットの飼えるマンションに引っ越そうかな。