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異世界転生~obligations~  作者: たいが~す
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第四章 鍛錬と魔法

鍛錬、その言葉には、様々な意味が含まれている。鍛錬一つとっても、何を鍛えるのか、何に力を入れるのか、そして何を目標とするのかは鍛える数だけ存在する。そして、今グランの課す鍛錬で体と心と技を磨く竜也。


しかも、ただの鍛錬などではない。グランが課す鍛錬とはグランが作り出した制限が課された異次元の中での鍛錬であるから、というのもあるが、それを課すグランですら、考えていなかったほどの途轍もない負荷を体にかけているのだ。逆立ち腕立て。ドラゴンフラッグ。ジャンプスクワット。一般的にきついとされ、10回でもできれば身体能力は高いとされるような訓練だ。それを、なんと2時間で各五千回というおかしな数をこなした後で、全方位攻撃を捌ききる鍛錬を積んでいるのだ。


ネロ、アイシャ、サタシャも鍛錬しているが、さすがにそんなことまではできない。というより、できる人間がおかしいのである。できるものは、果たして人間、否生物と呼ぶことができるのかどうかさえ分からない。竜也が強い理由が、才能によるものも有ったろうが、これを見る限りは間違いなく鍛錬、最早拷問と呼ぶにふさわしい鍛錬を積む果てにこの力が出来上がったのであろうと確信を得るには十分だ。


その様を見て、グランもまた確信している。この男は間違いなく類を見ない化け物に育つだろうと。否、生物という枠すらぶち抜いた頂の中の頂である至天存在、八魔柱にすら届きうるであろう。そして、グランのまさしく正統な後継者足りうる、絶対不可侵の存在へとも昇華し、そして成ることも可能であろうと。いや、もしかすれば、自らをも超え得るかもしれないとすら考え始めていた。


ただの人間では届きえない異常なまでの強さへの貪欲さ、渇望ともいえるそれが竜也を突き動かすのはわかるが、それについていけるからだというのは果たして人間の体であるのか。実はこのことは、竜也の体が内包している異常がこの有り得ない鍛錬を可能にしていた。


竜也は前世でも異常なまでに強さに執着し、渇望していた。理由は簡単。裏社会では、力そのものこそが生きるための資格である。竜也の前世は、ハードモードどころかルナティックすら甘く思えてしまうような困難な前世であった。なにせ、幼少時代に目をつけられたのがまず殺し屋である。それから生き延びるために竜也は進化した。だが、その次に目をつけられたのが暴力団そのものであった。竜也の殺し屋すらも殺すその力を手に入れようとしたのだ。


おそらく常人ではたとえ何回もコンティニューできようとも確実に投げ出してしまうであろうその困難を、死なずに切り抜けて見せた竜也は、その最中に、何度も刃で体を刺されたし、銃を向けられたことすらあった。暴力団は竜也の実力を過不足なく評価しており、それまでの実力では切り抜けられなかったというのもある。


その結果、幼少ながら生き残るために竜也は強さに貪欲になり、幼少でありながら己に鍛錬を課す条件反射すら身に付いてしまったのだ。これは、竜也がその年では有り得ぬほど賢く、その先を見据えることすらできていたからでもある。そして何より、それでも傷を負い、あらゆる傷つきを経験して、それまででは駄目だと体が変化を遂げたのである。


竜也の体の筋繊維は、常人のそれとはまったく違う。もちろんだが骨もだ。それらはまるで巨人を支えるために育ったかのごとく圧倒的な密度と高度を持つ。鈍らなら刃すらも通さぬ。そして、それでもおかしい進化であるといえるのに、外皮もあらゆる怪我により進化したのである。銃弾ですらも条件が合えばその体を貫かせないほどの硬さへと進化していたのだ。


竜也に課された修羅場と鍛錬が竜也自身をまさしく怪物へと育て上げたのだ。それでも前世では毒刃などで殺されてしまったのだから、前世はどれだけの難易度であったかわかろうものである。もちろんただの毒程度では竜也は死なない。塗られた毒は象が一滴で死に至るほどの劇毒である。


そして、この世界に来て、竜也はその精神力こそが己の強さを引き上げるスキルを授かったのである。異世界は前世の世界よりも身体能力の平均が遥かに高いというのもこの異常を説明できる要因でもあるが。これにより、竜也はグランの分身体とはいえ、それから放たれる極位階魔法ですらはじいてしまっていたのだ。


ただし、残念なことに、竜也には魔法の素質が全くの皆無である。ネロでも僅かに使え、アイシャとサタシャは魔法に関しては常人では届かないほどに高いものである。竜也はまるで、魔法はその有り得ない身体能力の代わりに無いのだとも思わせるのだが。しかし、グランには理由が分かったようだ。


「...ふん。神めらが。本当にろくなことをせぬものよ。魔法の能力に干渉しおって。本当に、荒らし回ったりなど好き勝手してくれおる。いつか絶対殺しつくしてやろうぞ。」


この世界には、神という存在は明確にいるようだ。だが、崇められる神というのは基本的に作られた像である。理由は簡単だ。本当に崇めるに足るような存在が神であるのなら、この世界は争いもなくなり、グランも憎んでいるようなことは起こらない。そんな存在をまず生み出さないための振る舞いすらしていないのだ。


そして、神が世界を荒らし回るなんてことはよくあるようで、好き勝手しているのが伝承でもよく伝わってきている。ただし、神が近くにいる国はそれが伝わっていないようで、神を崇め続けているようだが。


「ああ竜也、お主は神の善行など信じていないようだから真実を伝えておこう。,,,神は害悪だ。これもお主を呼んだ理由だ。機嫌一つで人を殺し回り、毒をまき散らし、土地を死の大地へと変え、それを高らかに笑って自慢しておるような屑共だ。それらを殺し尽くさねば、間違いなく人は、生き物は、そして世界はまた神に蹂躙されることになろう。そうせぬための八魔柱でもあるのだ。だが、事前に防げるに越したことはない。あの屑共を逃さず殺し尽くす手伝いをいつか頼みたい。頼むぞ。」


実際に、竜也は魔法の力を奪われている。が、それはこの世界にいる存在ができるわけではない。抑え込むことができても、命ごと吸収することはできても、生かしたまま才能だけを消すことができる存在は、この世界には存在していない。つまりはこれを行ったのは、神以外にはいないのだという立派な証拠でもある。


そんな、力を奪った存在を殺し尽くすのは当たり前。戻ってくる可能性すら存在する。転生してきた竜也の魔法の力を盗んでまだ悪事を続けている神を殺すのはこれから先間違いなく実行せねばならないことだ。


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神を殺す。その新たな目標、そしてさらにその先を目指すための力を得るために、尋常ではない鍛錬を己に課す竜也。だが、それはまだまだ先。鍛錬だけではなく今も生きていかねばならぬ。


竜也、ネロ、サタシャ、はまた冒険者としての依頼を受けてフェンラルとともに依頼に出かけて行った。今回の依頼は深沼での討伐の依頼だ。その討伐対象は様々であるが、一番の目的はマジックプラント。まさしく魔法植物というにふさわしく様々な魔法を放つ植物だ。中には、体の一部が魔法へと変化している個体すらいる。


だからと言って、危険度が高い種でもない。色が放てる魔法を示すし、予め対処法などを知っていれば対応もできる。故に竜也たちが手こずりもせず討伐し、証明部位でもある花や実を切り落とす。この花は、魔法薬や武具に使われることもあるし、果実は魔法の威力をほんの少しだがあげてくれる魔法使い垂涎の品でもある。


そして、無茶無理もせずにマジックプラントを狩っている最中に、竜也たちに大きな影が突如飛来したのであった。

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