第三章 力と褒美
はい、たいが~すです。試合、いやむしろ死合い、はたしてどうなるのか。
拙作ですがお楽しみ頂ければ幸いです。
それでは始まります。
「殲滅」
竜也は全ての箍を取り払う。それは力。それは意識。それは根源。
ありとあらゆる制約を、無意識に潜在しているその楔を取り払い、内なる全てを解放していく。
火事場のバカ力、リミッター解除などと呼ばれるそれ。ゾーンとよく併発するために勘違いされるが、それはゾーンとは全く違う力。
ゾーンは五感が研ぎ澄まされ、そして身体がそれに順応し、一時の先見すら得る、いわば未来予知であるのに対してリミッター解除はあらかじめ脳が身体を守るためにセーブしていた力すら解放すること。
ゾーンが経験と集中で解放されるのに対してリミッター解除は危機を、つまりは只の力では対処できない時にのみ発動する。
竜也は現世では孤児だった。今でこそ、死ぬ前でも圧倒的な武を会得し、真っ当からでは敵う者こそいなかった。だが、武は天性で会得し得るものではない。何より孤児が裏社会で何かしらの保護を得られる筈もない。竜也が子供の時に己以上の相手に挑まなければならなかったことなど当たり前のようにあった。そんな子供が、大人ですら簡単に物言わぬ骸と化す環境で生き残る為に、只の力ではなく異常な力を得たのだ。
竜也の身体から爆発的な力が滾る。それこそ目には見えぬが、放たれる圧が今までの比ではない。それを機敏に、いや視認すらできるグランは口角を上げ、嗤う。
「行くぞ。」
「それ程の物が秘められておるとはな。さて、どれ程か確かめさせてもらおう。竜也よ。」
グランも呼応するかの如く力を込めていく。誰でも視認できる程の圧倒的な覇を身体中から漲らせて。
そして静止。あらゆるものが時を止めたと錯覚する、それ程までの完全な集中。互いに互いを見つめ、威圧し、見据えて初動を計る。
瞬閃。動き始めはグラン。だが、それに合わせて同時に動き出す竜也。
二の交錯。音を、いや空気を抜くその速度が一点でぶつかり合う。
獄炎、冥水、絶氷、瞬雷、烈風、終土、そして生と死。
グランが放つ終焉を告げる魔法の各々。第五位階魔法すらも超越した魔法、極魔法と呼ばれるそれは、竜也に唸り蠢き、瞬いて迫り狂う。
掠りもすれば終わる死を呼ぶ魔法の各々を竜也は当然の如く避けていく。それに力を叩きつけんと迫るグラン。
拳と拳。脚と脚。刀と魔法。身体と身体。肉と肉。魂と魂。全てをぶつけ合い、叩きつけ合い、唸らせ合う。
グランの正拳突きに竜也が右ストレートをぶつけ、竜也のハイキックをグランが足刀蹴りで蹴り返し、竜也の袈裟斬りをグランが土極魔法で弾き、グランの体当たりを竜也はタックルで受け止める。
「フハハ!これ程までとは!面白い!これならどうか!」
グランが覇を込めて魔法を放つ。それは全てを呑み込んで尚喰らい尽くす根源の水。絶対的な無にも等しき極限の魔法を竜也は大きく構えた上段から絶大な膂力を込めて放つ極限の一刀。それはグランの水極魔法を縦に打ち消す。
「ふっ!」
竜也は息を一吐きするのに合わせ爆発的に加速、グランの懐に瞬間移動の如き速度で到達し、下から上へと斬り上げる。その瞬斬をグランは腕に氷極魔法を纏わせ全力で受け止める。そして互いに拮抗しあい、互いに押し合う。次元すら歪みかねないその暴圧の押し合いの中で互いに互いを認め合う。
膂力で竜也は押し勝ち、グランを吹き飛ばすも、すぐに互いが肉薄する。
竜也の右アッパーをグランが左腕で払い除け、グランの後ろ回し蹴りを竜也が前蹴りで押し退けて、竜也の刀の突きをグランが土極魔法で受け止める。
拮抗を打ち破るべく行われる攻防。一進一退。攻守転換。只の一撃も決まらぬが只の一撃も決めさせぬ紙一重の戦い。そして。
竜也とグランの全力の右ストレートが互いに炸裂し、そして互いに途轍もない速度で吹き飛ばされる。どちらも態勢を立て直し、嗤う。
だが、そこまで。竜也は膝をつく。身体を酷使しすぎた為に殲滅が維持できなくなったのだ。グランもそれを見て力を抜く。
「…この世界の最強がこれ程に強いのか。殲滅でここまでとは思わなかった。」
「何を言う。至天と渡り合う者など存在せぬ。竜也、それ程までの力を持っておるのが末恐ろしいことよ。敵う筈どころか傷をつけられる筈も無かったのだからな。我は神すら喰らう無だ。我相手にここまでできたことを誇れ。だが、まだまだこの世界の力を引き出せておらぬよ。試練は合格だ。…その殲滅という状態になる前に既に合格ではあったのだがな。覇を歩む力を持つ者、竜也よ。いずれその身に災厄が降りかかろう。だが、乗り越えよ。そして、我を越えるいつの日かを楽しみにしておるぞ…試練の褒美だ。我が分身を授けよう。」
グランは喜色満面で身体から分身を捻り出す。スライムであるできるそれは徐々に人を型どり、そしてグランと同じ姿となった。
「いつの日か我が真の身体に会いに来る時が来るかもしれぬな。さあ、戻ろうぞ。」
そのグランの言葉と共に異世界が歪みだし、そして、全てが色を変えたーーーーーーーー
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深沼、その場所で、竜也以外のパーティーは待機していた。勿論一切気を緩めずに。試練として連れ去られた竜也を待って。
そこに突如竜也と一人の老人が現れた。
「来た!」
全員が武器を構えて殺意を向けて警戒態勢へと移項する。竜也の無事を確認し、僅かに安堵するも後ろの老人に対して敵意を向ける。その敵意を解くべく竜也は説明する。
「待たせたな。後ろは大丈夫だ。味方となったグランだ。いきなりの試練だったが、害する気は元々無かったようでな。安心しろ。」
その説明に竜也以外の置いていかれたメンバーは不審がるも、明らかに目の前の老人は敵意を向けてこない。
「我はグラン。よろしく頼む。先程はいきなりですまなかったな。だが敵ではない。味方だ。安心せよ。」
「本当に大丈夫なんですね…?ネロです。よろしくお願いします」
「サタシャです。」
「タロスっす。」
「ペルーナムと申す。」
「サヘルよ。」
「…トリンドル」
「ドンモです。」
グランも自己紹介したことでネロ達も自己紹介し、警戒が解かれていく。それを見て、竜也はパーティーは大丈夫だと判断し、帰る準備を進めていく。
竜也は新たな仲間と出会い、全力で試合をして認めあった。これからどうするかも竜也は考えながら深沼を去っていくのだった。
ご覧頂きありがとうございました。難しいですね…整理しながら書かないと…拙作で誠に申し訳ございません。
またご覧頂ければ幸いです。
ありがとうございました。