第三章 試練と力
はい、たいが~すです。今回は特急展開。急すぎるかもしれません。ですがどうか御温情の程を何卒よろしくお願い致します。
お楽しみ頂ければ幸いです。
それでは、始まります。
深沼という湿地に突如地響きと共に現れたスライムの皇帝、エンペラースライム。その大きさはキングでさえも成人男性2人分の高さと5人分の幅があったというのに、その倍を優に上回る巨体をエンペラースライムは見せつけていた。
そして、竜也達を見下すかのように見下ろしている。その様はキングなどとは圧倒的に格が違い、実力としても明らかに金級と同等かそれ以上。エンペラースライムは神聖とすら思わせる雰囲気をも醸し出し、竜也を除くパーティー一向を存在のみで怯ませている。
「ふむ、強き者よ。我を見て怯みすらせぬものよ。…竜也というのだな。お前は我の試練を受けるだけの資格がある。どうする?」
なんとエンペラースライムは話しかけてきた。しかも、名乗ってもいない竜也を一拍おいて名前を当てる、ということは何かしらのそういうスキルか魔法を持つということ。
そして、試練?果たして何が目的なのか…
「確かに俺が竜也だ。そしてまず、お前は何者だ。お前の言う試練とはなんだ。お前は何が目的だ。そこからだ。」
竜也は名を名乗ったあとに気を緩ませずに鋭く質問する。
「これは失礼した。我が名はグラン。スライムの超越種災厄喰いなり。スライム・獣・植物・悪魔・死霊・精霊・天使・竜種族の中で各最強と呼ばれし八魔注が一柱なり。我が目的は真なる強者を鍛え上げ我らが覇道を歩ませんとすることなり。要するに強者の育成だ。そして、試練とは我との一騎討ち。勿論受けても受けずとも殺しはせぬ。五体満足であることも約束しよう。仲間の無事もな。…後エンペラースライムではない。それは我の下の種族だ。」
…どうやらこの存在はエンペラースライムの更にその上の化け物だという。そして、いきなりのわけのわからない試練。罠なのかもしれない。しれないが…
「わかった。受けよう。罠であれなんであれな。このままでは巻き込んで被害は甚大だろう。」
「ふむ。肝が座っている。安心せよ。わざわざ罠を張るなど下策も下策。特にお主には、な。」
受けるしかない。何せこいつは只者ではない。もし害を及ぼす気なら、間違いなく周りは巻き込まれて死ぬだろう。そうでなくても致命傷は避けられない。
竜也達のパーティーはグランの圧倒的な威圧にすら負けず怯みながらも警戒しているが、ペルーナム達は別だ。言葉を無くして脅えている。それなら、一騎討ちするしか安全策はない。なら、腹を括る、それだけのことだ。
竜也は頷く。
「覚悟は充分だ。よし、なら我らのみ異次元へと入ろうぞ。気を引き締めよ!食らいつけ!これは試練。容易きものでは無いと理解せよ!」
グランはその場に詠唱を紡ぎ出す。その言霊は魔方陣の一文字となり、その魔力は結界となり、詠唱者はそれを組み上げ、汲み上げ、完成させる。その瞬間、竜也とグランは異次元へと飛んだのだった。
「あれは…第五位階魔法…そんな…」
絶望とも羨望ともわからぬサタシャの声を聞きながらーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
竜也とグランは異次元へと到達する。それはまるで宇宙が如く。その世界は完全なる無。
この時点から竜也はグランの一挙手一投足に最新の注意を向けていた。すると。
グランの体が縮んでいき人を象っていく。それは翁。衣服は魔法使いのローブのそれであるが全く怪しく無く、気品に溢れている。そして王たる資格を持ち、その力は全てを寄せ付けぬ圧倒的な覇。目の前のその存在はありとあらゆる生物を跪かせる、それだけのことができる次元へと変貌した。
「改めて聞くが俺を何故強くさせようとする?そしてお前はこの世界でどの位置にいる?教えてくれ。」
「竜也、お前を強くしようとするのはそれに届く強さを持ち、そしてそれを従える圧倒的な意思を持つが故だ。それ以上でもそれ以下でもない。そして我はこの世界で至天に位置する。後、これはまたとない機会でもある。竜也よ、これまで全力を出しておらぬだろう。さあ…来い。我に輝きを見せよ。」
その力が、威が、覇が煌めくようにグランから異次元空間の周囲一帯に拡がっていく。
厳かで威圧的で聖なるその圧は竜也の全てにのし掛かり、竜也すらも拒む。
恐怖、絶望、憔悴、慟哭。
ありとあらゆるプレッシャーを跳ねのけて竜也はグランへと一足飛びで迫る。その速さ、凄まじさは正に閃光と呼ぶに相応しい。そして、閃光と化した居合い一閃。光が如くーーーーー
グランはそれを指で摘まんで受け止める。そんな程度では話にならぬと言わんばかりに。
そんなことはお構い無しに竜也は手首を返す。指を外してそのまま体を切り落とさんと腕一本で振り抜いて斬る。
それすらも嘲笑うかの如くグランは僅かに引いて避けた。当たるどころか掠りもしない。
止まぬ雨。それは剣戟。刀が煌めく光りが創る圧倒的な斬撃の雨。当たれば間違いなく一刀両断と化す程の威力を持つ。
だが、掠りもしない。どうした、当てぬか。と言わんばかりに。それはグランが雨の中濡れもせずに動ける程の途轍もない速度を持つ存在でもある証左。当たらねば意味など無いーーーーー
「どうした?まだ本腰にも見えぬ。しかしこのままでは当たらぬし、反撃もしよう。全力も出さずに終わることとなるぞ?」
「この世界に来てまだ体に慣れていなくてな。準備運動と体への刷り込みだ。…待たせたな。」
一段、いや三、四段程に速度が上がる。光速へと至る程への爆発的な猛加速。剣戟の雨が暴風雨へと、いや嵐へと変化していく。斬撃、斬撃、斬撃。しかも、先程のように辺一面を切り裂く無差別攻撃ではない。範囲を指定し、絶えずグランの方を執拗に狙い続ける死の斬撃嵐。
グランも遂に斬撃を捌くに至り始める。腕・脚・身体…しかしそれでも尚斬れない。掠らせもしない。超人ですら耐えるのに精一杯なそれを身体に一回も剣先を掠らせもせずに捌ききる。
「まだまだだ。まだ終わりではない。まだ来い。」
グランの挑発。それに応えるように竜也の斬撃の質が更に変化していく。その様は流水、継ぎ目なし、まるで生きて蠢くかのように。
剛一点の剣が剛柔併せ持つ剣へと至る。力を覚え全力も覚えそれに身体と技術を合わせて委ねていく。
剣身一体の境地。まさしく渾然一体。
竜也の愛刀虎桜も呼応するかの如く煌めきを増してゆく。煌めき合い、引き出し合い、引っ張り合い、委ね合う。互いをよく知るからこそできる芸当に他ならない。
「ほう…よくやる。」
グランすら見惚れる。その技が素晴らしいものである証左にグランのローブが僅かに斬られた。間違いなくその速さ、凄まじさは覇に届きうる。
次の瞬間竜也は吹き飛ばされた。
「我が攻撃するにまで追い込まれるとは…流石なり。よくやった。だが、まだであろう?」
グランは竜也にそう試す。
グランは掌底を放ったのだ。ただそれだけ。しかし、それだけのことの余波ですらも異次元を揺らす程の威力を持つ。そして竜也は直前に反応するも反応しきれず僅かに力を逃すのみ。…だが。
「途轍もない力だな…このままでは勝てない。なら、勝たせてもらおう。そうする他はない。」
竜也はその一撃に耐えきって立ち上がる。覇を叩き込まれる、つまり超人ですら耐えることが叶わぬそれを平然と喰らいきって。
しかし、力の差は歴然。只の掌底が竜也の体力を、生命力すらも持っていくのに対して、全力の剣の舞いはグランのローブを僅かに斬るのみだ。しかもそれは斬ったすぐ後に再生し、元に戻っている。
それでも諦めが竜也の目には無い。諦めという概念すら知らないかの如くグランと再度対峙する。
「使いたくは無いが…これほどなら試しに使うというのも大丈夫だろう。」
竜也は立ったままに目を閉じ心臓の鼓動へと意識を深めていく。僅かに空気をも震えさせて。
「殲滅」
竜也は全ての箍を外した
ご覧頂きありがとうございました。スライムは至高。最強。竜よりも優遇…しようかどうかは今だ迷っております。が、中途半端でもどうか御温情の程何卒よろしくお願い致します。
またご覧頂ければ幸いです。
ありがとうございました。