第二章 手合わせと限界
はい、たいが~すです。今回はネロが主役です。できれば応援してあげてください!
拙作ですがお楽しみ頂ければ幸いです。
それでは始まります。
竜也とネロは冒険者ギルドの庭の内で相対し向かい合う。
手合わせ
実力を図る上に更に力を付けるため、いわゆるステップアップのために竜也は手合わせに踏み切ったのだ。
普通、武術でも手合わせはある程度基礎を積んで初心者を抜けてから行うのが当然だ。理由が3つある。
一つ目は心を折らないため。
武術は、心・技・体が最重要視される。これを極めることこそが最高の目標と言っても過言ではないからだ。それをいきなり意気消沈させるようなことをしないために、というのが一つ目。
二つ目は変な癖をつけないため。
初心者を例えるなら乾いた布。知識や技術という水をよくも悪くも吸い込みやすいのだ。それを、手合わせで要らぬ癖をつけてしまっては矯正も相まって強くなるのに余計な時間がかかる、というのが二つ目。
三つ目は目標を大きくさせすぎないため。
武術とは良くも悪くも終わりの見えない道だ。それをいきなり竜也程の存在が手合わせをすれば、目標にしてしまう。そして、全然追い付けないとしり、心を折ってしまうのはよくあることだ。しかも、それだけならまだしも簡単に追い付けると勘違いして無茶をし、良くて行動不能、悪ければ死んでしまうなどということもある、というのが三つ目。
しかし。
竜也は思う。
ネロの吸収力は異常で、そして、先日盗賊達との一対多数という修羅場をぎりぎりとは言えくぐり抜けたのだ。
竜也を目標として公言していることからも相まって、二つ目と三つ目は考えなくてもいい、というかなり特殊なケースだ。
何より、ネロがどれだけの怪物に育つのかを見てみたくなった。
それが、竜也という武術を極めた者がネロに対して素直に感じたものだ。
ならば、一つ目は自分がしごいてカバーしてやればいい。ならばーーーーー
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ネロは目の前の手合わせの相手に興奮・尊敬・畏怖などの様々な感情を感じていた。
なにせ、相手はあの竜也。自分を遥かに越える実力を持ち合わせ、そして、尊敬と憧れを抱くに至った程の男だ。
その目の前の男が言うのだ。
「勝つ気でこい。ネロ、お前は俺を越えられる可能性すら秘めていると踏んでいる。今はまだ届かなくとも、それでも尚お前の全力を、輝きを見せろ。」
才能を、己以上の存在に成れる可能性があると認めてくれているのだ!
ネロは歓喜に打ち震える。最強の人と手合わせし、更に強くなれる、という喜びも含めて。
僕は今は弱い。
でも。
絶対に強くなってみせる!
自分はここだ!ここにいるんだ!誰よりも強くなってやるんだ!
ネロは竜也が開始を宣言したその刹那、地を蹴ったーーーーー
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袈裟斬り。突き。横払い。上段。斬り返し。斬り払い。正拳突き。回転蹴り。ソードバッシュ。
ネロはありとあらゆる猛攻を重ねる。
竜也はそれを止め、受け流し、払い、捌く。
技術の差は歴然。竜也はその場からほとんど動いてすらいない。最適化されたその動きはネロをいいように動かして払い除けるのだ。
それでも尚、ネロは猛攻を続ける。
ネロも大したものだ。少なくとも出会った時の少年と同一人物だとは思えない程に。
斬撃、体術。
雨のように降りかかる攻撃の数々。それが止む気配すら見えない。
手足の一つと同じ程に木刀を馴染ませ、使いこなしている。
しかし、大振りが多いためか竜也には当たる気配どころか疲れすら見えない。
それに比べ徐々にだが、ネロは疲弊してゆく。
不意に。
ネロが疲れきり、動作が遅くなる。その瞬間に、竜也は木刀の中心も中心。そんなところに一撃を仕掛けた。防御をしろと言わんばかりに。
ネロはそれをなんとか防いだ。なんとかだ。本当にギリギリ。
だが、諦める気配など欠片も見えずにネロはその身体で立ち向かう。力など残りもしていない。
またもや突進を仕掛けていく。それもあり得ない速度で。
疲れている筈のネロがどんどんと速度を上げてゆく。いや、上がっていく。まるで、吸い込まれるように。
端で観戦していたアイシャは驚き、それを見つめる。なにせ、それは。
ついに竜也をほんの少しとはいえ後ろに押し込んだのだ。あの少年が。疲れきったあの身体で。
竜也はこれを狙っていたのだ。
行動の最適化。これはいつ起こりうるのか?
それは身体中が悲鳴を上げてこれ以上動けないと判断したとき。
この時に、武芸者ならば。
身体を動かすために動きを身体に最適化させていく。無駄な身体を全て動かすために総動員しながらも。
そして、それはいつしか高みを身体に刻み付けていく。
渾然一体。ゾーン。色々と呼称がつく、いわゆる極限状態こそが。
ネロは徐々に今までの獣じみた連撃の角がとれて、理知的かつ流動的な動きへと変わっていく。
流水が如く。
意思貫徹と共に限界まで能力と技を高めていく。絡み合い、そして頂きへと。
そして、嵐の如き連撃を限界を遥かに越えて続けて。
ネロは疲労で地へと伏したのだったーーーーー
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結果、竜也の圧勝だった。少しだけ、竜也を後ろに下がらせた、たったそれだけが今のネロの限界だ。
しかし。
只の少年が竜也を後ろに下がらせたのだ。それは、あり得ないことだった。故に。
ネロは満面の笑みで気絶していた。
才能、という言葉は彼のためにある、いや祝福すら受けているとも言える程の傑物。
竜也とアイシャはその感触に思わず笑みをこぼしてしまうのだった。
ご覧頂きありがとうございました。よくある限界突破、では面白くないので、もう少し色々捻ってみたいなと思っておりますが、何分作者めに才能はございませんので、期待しない程度に期待して頂ければな、と。
またご覧頂ければ幸いです。
ありがとうございました。