第二章 謀略と襲撃
はい、たいが~すです。今回は貴族の初登場です。これははたして本当に貴族なのだろうか…?作者の頭は鳥頭でして、不足分が多すぎるかもしれません。
拙作ですがお楽しみ頂ければ幸いです。
それでは始まります。
ワース侯爵という不届き者に暗殺者を差し向けられた竜也達。これからどうするか。決まっている。完全なまでの報復だ。やられてそのままでいる程竜也は穏便でも無い。しかし、そのまま突っ込んでいって首を叩き切る程馬鹿でもない。
証拠が一つ程度では足りないな。言い逃れもしくは知らぬ存ぜぬで押し通す可能性が非常に高い。もしくは名を騙る偽物の犯行だと言われかねない。なら、完全に叩き潰すには逃げも隠れもできぬ程に証拠を集めてやればいい。知られぬようにな。
竜也は物理も得意だが、元々竜虎組組長だ。搦め手も知っている。知り尽くしている。なら、こういう場合は…
「アイシャ、少し頼みたい。今から俺は少し顔を隠して生活する。そして、一時的にフェンラルの管理権を渡しておきたい。勿論渡すわけではないが、ワースとかいう屑を叩き潰すのに必要だ。なにより、冒険者ギルドがこのまま手を出されたままなどでは終わるに終われないだろう。囮になってはくれないか?」
不躾で危険な頼みだ。つまるは証拠を押さえるために竜也を暗殺者に殺されたように見せかける。しかし、既に所有権はアイシャに移っており、フェンラルは手に入れられない、とするのだ。
こうしてもワースは恐らく諦めない、いや、諦めきれないだろう。なにせ、フェンラルを手に入れられないばかりか、事情を知っていそうな者に所有権が移るのだ。卑怯者ならば消すか拉致するか、ないしは…
接触も有り得るだろうが、少なくともそれは冒険者ギルドに真っ向から喧嘩を売るのに等しい。そうなれば、冒険者ギルドが王国に協力しない可能性もある。なにせ、既に接触するなと脅しているのだ。それに手を出して弾劾されるくらいなら…
拉致もかなり危険度が高い。故にほぼ確実に暗殺者か傭兵崩れを送ってくるだろう。暗殺には成功したが、肝心のものを手に入れられない何かが起こったために次に向けられるのは恐らく傭兵崩れだろう。何が来るかわからない。故にアイシャが了承してくれるかはわからない。立場もある。
「わかった、受けよう。手練れを向けられるのは自分としても手加減無しで戦える。それに関しては望むべくも無い。なにより、散々ワースの奴は冒険者ギルドにちょっかいを掛けてきていたからな。堪忍袋の緒が既に切れていたところだ。」
そんな竜也の考えに相反するかのようにアイシャはすんなりと了承した。アイシャは戦闘狂だというのも大きいのだろうが、なにより、ワースの奴が今まで何度も我を通そうと外道法を散々用いていたらしい。
「奴がした妨害のせいで被害は途轍もないことになっている。本部もやっと動けなかった腰を上げることができる。今まで散々煮え湯を飲まされていたのだからな。本部も乗り気だろう。応援すら見込めるな。」
…どうやら恨み辛みが骨髄に染みる程に苦渋を舐めさせられていたらしい。それなら、遠慮も何もなく叩き潰すのも構わないだろう。搦め手を使っても、全然大丈夫だ。
「よし、偽の情報を流してくれ。竜也は死亡、フェンラルはアイシャに譲渡。俺はフードでも被ろう。アイシャの護衛をする。ネロもフェンラルもそうしてくれ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
竜也が死んだとギルドに偽の報告がなされて数日後、突然港町ラズーロに貴族が訪問してきた。考えてはいたがまさかだった。憎っくきワース侯爵その者が乗り込んで来たのである。
ワース侯爵は冒険者ギルドに入ってきてアイシャを呼びつける。護衛者も引き連れている。それに応じてアイシャもフードを被り顔をある程度は隠し、アイシャの護衛役とした竜也と共に相談室へと案内し、話が始まった。
「我輩はアルヴェーダ王国の侯爵家の当主が一人、マストルーユ・ワースである。我輩がここに来た理由とやらがわからぬ程愚かでは無いだろう。牙狼とやらを引き渡せ。あれは我輩に必要だ。お前らにあれは相応しくない。あるべきところに移すが良い。」
高圧で傲慢だ。しかも貴族というのを鼻に掛けた話し方である。他者を見下した物言い。そんな程度の奴にフェンラルを渡す訳にもいくまい。
「断ったはずです。牙狼は冒険者ギルドの管理下に置かれました。それに異を唱えるおつもりで?それは冒険者ギルドへの敵対行為とみなしますが。」
「知らぬな。そんな事に関係は無い。敵対行為でも無い。渡して当然なのだ。牙狼を研究すれば、安全にもつながるだろうし、我輩を守らせるにも一役買うだろう。それを渡した方が益が出る。そんなこともわからぬ程愚かなのか?」
対価も何も無い。挙げ句には他者の事など鑑みない。表面も内面も自己中心的。貴族が腐っている、というのはどこの世界でも当たり前なのかと竜也は内心で呆れ返る。
「なら、お話はここまでです。これはギルドの方針です。なにより対価が皆無。ふざけるのも程々にしてください。では、お帰りください。」
アイシャが無機質に言い放つ。しかし、ワース侯爵はその顔にいやらしい笑みを浮かべながら立ち上がる。人を蔑み、舐めた目つきだ。フェンラルをどっちにせよ手に入れられると確信しているからだろう。そして、護衛と共に出ていく。その際に竜也とすれ違う。その時にワースは耳元に呟いていく。
「ふむ、あんな女の元にいるのも勿体無いだろう。どうかね?君。あの女がもし死んだらこちらに来る気は無いかね?腕も立ちそうだし、なによりその顔は美しい。可愛がってあげよう。」
下卑た笑みを浮かべながらワース侯爵は立ち去っていく。護衛に関しては竜也に気の毒そうな顔を向けて立ち去っていく。アイシャもそれを一応見送った後に相談室に竜也と共にもう一度入る。
「あの男は確かに屑だな。だが、それだけでも無い。ただ単に傲慢なだけではないな。完全に自分の思い通りにはいかなくとも表情も怒りで崩さず、言質も取らせないとは相当な魑魅魍魎だな。」
「ああ、そうだ。あいつは何よりそういう悪事に関しては頭一つ抜けていてな。だからこそ、今まで尾すら掴めなかった。恐らく今回も来るだろうな。気を付けてくれ。後、あの時何を耳元で言われた?」
アイシャにワースから言われた身の毛もよだつ誘いの事を一応話す。その内容にアイシャは苛立つ。
「私が相手にされていないのに、あの男は竜也をも手に入れようとしているのか…!?全くもって忌ま忌ましい奴だ!絶対地獄を見せてやろう!」
憤慨し、怒気を放ち、倒すべき理由が更にできた様子のアイシャを見て竜也は思わず苦笑する。
絶世の美女であるアイシャと貴族の男というだけの傲慢なワースとは男である竜也からして比べるべくも無いのだが…
そんな下らない比較に苦笑しつつも、それでもワースを一切許してやるつもりなどない。ほぼ確実にあるであろう後日の襲撃に備えネロとフェンラルに鍛練を各自で積ませその日を竜也は待つ。竜也自身がワース侯爵のスパイをしながら。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後日、ワース侯爵は自分の領地であるマストルーユで傭兵に接触し、暗殺依頼らしきものを出したのを見届け、ラズーロの冒険者ギルドに戻る。そして、冒険者ギルド本部に情報を予め通達しておいた。
竜也は情報は信憑性が無ければ只の嘘になり、意味を成さないが、予め通達された情報がもし本当なら、間違いなく信憑性が高いために信用されると知っていたからこそ予め通達するという方法へと出た。
実はこれを用いて政敵の地位を仕組んで落とすなどが結構頻繁に起こる訳なのだが、冒険者ギルドという肩書きと、実際に暗殺者から情報はある程度裏付けされていたために、もし、襲撃者が実際に来た上に捕らえられたのならば、間違いなくワースは貴族社会的にも人としても終わる。
万全の状態だが、それを悟られないように上手くアイシャは体調不良すら演じて襲撃者達を待ち構えた。
そして、竜也が冒険者ギルドに報告したその通りに襲撃者達は夜間に冒険者ギルドに襲撃を仕掛けたのだった。
ご覧頂きありがとうございました。謀略というには片腹痛いかもしれませぬ。作者の頭は単細胞ですので。どうか、どうか平に御温情と御容赦の程を何卒よろしくお願い申し上げる次第でございます。
またご覧頂ければ幸いです。
ありがとうございました。