第二章 暗殺と罠
はい、たいが~すです。どうしてこう、不穏な内容には筆が乗る?のでしょうか…
拙作ですがお楽しみ頂ければ幸いです。
それでは始まります。
夜の町。影。暗闇。月明かり。草木も眠る丑三つ時。闇夜に紛れて蠢く者達。ある闇の依頼を受けてそれを成さんとする暗殺者達が行動を起こし始めた。狙いは牙狼。竜也と呼ばれる得体の知れぬ冒険者暗殺も含めて。
暗殺者達はまず睡眠香を風上からギルドに流し込む。ある程度流し込んだ後に睡眠香を消して懐にしまいこみ、3人が別々の入り口から互いに役割を持って行動を始める。
寝静まった冒険者ギルド。眠らされた者達もいる。そんな中を音一つ立てず滑るように奇妙に進んでいく。そして、竜也という冒険者のいるところに難なく辿り着いた。牙狼もネロという少年もいる。睡眠香が効いたのかそれともただ単に眠っているだけなのか。
しかし、それは依頼遂行になんら関係は無い。
音も悲鳴もなく竜也を殺さんとして伸びていく影。暗殺に使う毒が塗り込まれたナイフ。それは容易く、そして楽に人を殺すだろう。その刀身は竜也の首の頸動脈に刺さり、そして夥しい出血とは裏腹に静かに死んでしまった。
ーーーーーはずだった。
気づけば手元にあったナイフの持ち手が全て切断され、刀身は床に刺さっていた。そして、暗殺者達は一人を残して胴凪ぎに一刀両断されていた。
馬鹿な、有り得ない、何故だ。
それが、その感覚が、その感情が、その恐怖が真っ先に心に浮かぶ。少なくとも睡眠香に当てられて眠っていた筈だ。そうでなくとも、自分達も手練れだ。寝ているか起きているかの判別はわかる筈であったし、なにより竜也の殺気に気付けぬ筈がない。
しかし、現実は仲間二人が既に討たれ、そして生き残った自分は暗殺者の矜恃として悲鳴こそ上げていないが、利き腕と右足を叩き折られていた。
速すぎる。いくらなんでも、見えないなんてレベルではない。理解すら追い付かない。だが、ここで捕まる訳にもいくまい。
すぐさまそう思い直した男は奥歯に仕込んでおいた毒を噛み千切り、絶命しようとする。
しかし、それすらも読まれていた。
竜也という得体の知れぬ冒険者はすぐさま自分の口に手を突っこみ、その毒を抜き取ったのだ。そして自害をしないように口に布を詰め込まれ押さえ込まれる。
訳がわからない。何故こうも慣れているのか。
この竜也という冒険者は間違いなく暗殺され慣れている。そこから何度も身を守っていなければ成せない無力化と完全な行動不能。自害をするとわかっていなければまず毒の存在にすら気付けない。そして、そこまでするのは上級の暗殺者のみだ。捕まったときの事を考えて動くのはそこまででもできるが、死ぬのはそれほどでないとしないからだ。そしてこの手際の良さ。
こいつは、荷が勝ちすぎたか…
そう思いながら眼の前の冒険者を見る男だった。
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魔物の森の依頼をこなし、港町ラズーロに戻ってきた竜也達だったが、不意に竜也とフェンラルは何か得体の知れない気配を感じた。
フェンラルは主というか相棒の危機の予感を野生の勘で反応したに過ぎなかったが、竜也自身は完全に察知した。元の世界でもよく差し向けられた、あの忌ま忌ましい気配。つまるは殺し屋。
フェンラルを狙って闇の依頼を出した奴が居たか…面倒だが間違いなく凄腕だ。何度も感じた奴等の気配の中でも相当に上手く紛れ込んで気配を隠している…
急に竜也の顔が険しくなったのを見て、ネロがそれを不安がる。
「竜也さん。何かあったんですか?何か…顔が険しくなっていますよ?」
「気を付けてくれネロ。フェンラルもだが。暗殺者が町にいる。間違いなく俺ら狙いの凄腕だ。万が一を考えてくれ。」
「えっ…」
竜也はネロに打ち明け警戒を促す。ネロは驚き、少しだけ怒ったような顔をしていたが、すぐに引っ込めていた。
冒険者ギルドに戻り依頼遂行を報告し、その後アイシャに取り次ぐように頼んだ。
アイシャはすぐに出てきて、そして竜也の顔を見るなりすぐさま察して相談室に竜也達を連れ込んだ。
「ふむ…暗殺者、か。やはりか…どうする、竜也よ。その顔を見る限りでは少なくとも凄腕だろうに。」
「迎え撃つしかないな。いつくるか、なら恐らく今日だ。予め情報は仕入れておき、そしてすぐさま決行するのが大抵の凄腕達だ。気配を感じたなら間違いなく夜間襲撃と見て間違いないだろう。」
「あいわかった。油断はするなよ。」
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アイシャも現場に駆け込んできた。横の部屋で待機しており、竜也が暗殺者達を切り飛ばしたのと全く同時に入ってきた。フェンラルも既に起き上がって臨戦態勢に入っていた。ネロさえも刀に手を掛けている。
もし、ナイフが竜也に刺さったら…
なんてのは元々から有り得ないことだった。この状況では暗殺者達は火に飛んで入る虫と同じくらいのものだ。さて。
「アイシャ、尋問は可能か。」
「ああ、可能だ。そういう魔法があるものでな。だからこそ、今回の暗殺者達は恐らくだが、自決しかねんな。それを阻止できるか?」
「可能だ。やってみせよう。」
予め情報は打合せてあった。睡眠香を使いかねない、ということで、アイシャと竜也達と残る職員達は睡眠無効の魔法をかけておいたのだ。睡眠が効かなかったのはそれが理由だ。後は寝てるフリを磨くだけ。そして、万全で臨む。
今回ギルドに残った職員は皆が手練れだ。それぐらいに手ぐすね引いて待ち構えていたのだ。万が一を考えて竜也の部屋も最奥にして逃げにくくすらしておいた。暗殺者達を嵌めたのである。
アイシャが情報を引き出してみると、どうやら研究者では無く貴族が仕掛けたようだった。よく考えれば腑に落ちるだろう。少なくとも一介の研究者如きがここまでの暗殺者達と知り合える訳も無い。竜也を消した後なら、どうとでも言い分は立ったのだろう。冒険者から牙狼を引き取ったのだ、とも。
しかし、そちら側の思い通りなどにはならなかったし、第一に尻尾を掴んだ。なら、やってやる仕返しは唯一つ。法的に則った厳罰だ。
竜也は暗殺者からわかったワース侯爵という不届き者に向けて殺意と怒気と闘志を漲らせていた。
ご覧頂きありがとうございました。普通護衛なら近くにいろ!って?仰る通りでございますが、何卒物語進行のためにお見逃しをば…
またご覧頂ければ幸いです。
ありがとうございました。