09
「――この件で予め下見行ったりしてへんやんな?」
珊瑚は海月に問うた。
除霊を行う際には、周囲の様子、光源や予定するカメラ位置、何処で競霊をするか等を設定する為に事前の下見へ行く事が稀にある。
「いや。今回は資料によるとこんな化け物が出るって話じゃなかったし、被害も当時の加害者個人への不幸が続くって話のみだった。
行方不明になった少年が消えたっていう防空壕はとっくの昔に壊されてるし、地縛霊が実際に留まっているなら蛍が呼び出して、適当にチャチャッと解脱させるつもりだったから。」
頷きながら聞いていた珊瑚は「そりゃそやわなー…」と、呟いた。
「だから一応、この怪物は処理したにせよ、少年の恨みが消えたかどうかってのは別問題じゃねーかと思う。」
海月はぼやく様に言い放つ。
「せやな。まあ、音編集の時にレコーダーの音声は聞くけど、ホタちゃんは降霊させる時にちゃんと名前呼んでた?」
「勿論。」
「ただ…うーん、どやろ…」
珊瑚は自分の部下としてルームに迎え入れた面子を全面的に信頼するので、一応確認、と言う意味合いで尋ねた後、本部から配布された依頼文の記された用紙を軽く流し見して頭を傾げた。
「ちょっとこの依頼者に、きな臭いトコあるような気がせんでもない思うわ。
冴はん、その点はどやった?」
「んー、だな。田舎特有の、俺らに対する警戒はかなり強かった。
でも、まあ事情が事情だから仕方なく呼んだ、っつー諦めみたいなんが半端じゃなかったし。」
************
――海月は、現場へ行く数時間前、夕刻近くの日が落ちた小さな村の情景を思い出した。
山間の道を車で数時間走り、辿りついた集落の入口に立つ中年男性に案内された瓦葺の豪奢な一軒家には
彼と同年代らしき5人の男女が広い和室の中央に固まって神妙な面持ちで座っていた。
「うちらで、何とかしようと、色々手当たり次第にやってはみたんですけど。」
ここまで案内してくれた男性、依頼者の一人であるマツヤマが言い難そうに口を開く。
「色々って?」
海月の隣に座った蛍が、持参したボード片手にペンを走らせながら顔を上げて聞いた。
「そのぉ、うち等が懇意にしている寺の和尚に頼んでみたりよ。」
「誰だよソレ。」
海月がいつも通りの不躾な物言いで問うと、間髪入れずに蛍が答えた。
「この辺りのお寺となれば、言善寺でしょうか。」
「此処にソイツが居ねーってコトは、効果は一切無かったってことか。」
海月は半笑いで呟いた。
「他には、盛り塩したり、札貼ってみたり、だな。」
マツヤマは他の五人に同意を得るように周囲を見まわした。
自分より明らかに年若く見える海月に茶化されているのが気に食わないと言った心境を隠すこと無く、依頼者たちは険しい顔で頷いた。
「これだけやっても効果が無いなら、KAITZさんでも、無理かもしれんですけど。」
「ま、まあまあ…少し、その辺り見せて貰いますね。お札は、其々のお家の神棚ですか?」
蛍がとりなすように大きな手を広げ、安心させるように言った。
しかし閉鎖的な村人たちは、ヨソ者たちの前に自分たちのプライベートを明かすのに戸惑ったようで、急に落ち着きを無くしだした。
誰かが率先して立ち上がるのを全員が待ち望んでいるかのようにまごつきだし、海月は苛つきを押さえずに言った。
「っつーか、依頼文読んだけど、お前らに降りかかる不幸が霊によるものだったとしたら、
完全に恨まれてるって事だからな?
それを俺らが何とかしてやろーって来てやったの、自覚してんのかよ。」




