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「――で、その……水果が、現れたわけです。」
海月は、目の前のスクリーン上へいきなり登場した、華麗な空中回転を披露するジャージ姿の人物と、その姿を釘付けになったようにキラキラした瞳で見詰めるロリータ少女とが同一人物であることに未だ疑いを抱きながら説明を続ける。
昨日現れた化物との戦いの一部始終を撮影したフィルムを、ビデオテープに録画して記録として残すのがこの“テレシネ”という作業で、撮られた映像を解説しながら仕事内容を伝達するのが一連の流れだった。
「水果は俺の方に業務用メジャーを放り投げ、それを持っておくよう促し、自分はテープの端をつかみながら……怪物の身体に巻き付けました。
その間、俺は蛍を運んでカメラの元へ戻りました。」
海月が憮然とした表情で説明する通り、下半身が無様に千切れた血塗れの蛍を抱きながら、本人が近づいてくる姿が画面上に映し出されるのをその場にいる全員が見つめている。
「そこで少し手当てして……撮影に戻り、水果が怪物を締め上げてメジャーのテープに
……抑圧の呪文?それか、呪詛?何を送り込んだ?」
海月がニナへ確認するように声をかけた。
しかし眼を見開いて映像に夢中になっているニナは、聞いているのかいないのか、無言のままである。
「あー、水果、聞いてんだけど。」
海月が尚も声をかけた。
「…ニナちゃん、解らんよね?」
珊瑚がまるで決めつける様に問うと、今更自分に質問されていることを理解したかのようにハッとした表情で海月を振り返ったニナは、困ったように口を開いた。
「え、とぉ……わかんない、かな…よく。」
海月は唖然として、ニナと珊瑚を交互に見た。
「わかんないって、咄嗟の判断だったから忘れたって意味?」
困惑しながら聞くが、ニナの表情は冴えない。
沈黙が保たれたまま、映像は再生され続け、海月によって除霊された怪物が、砂を巻き上げながら上空へ消滅していく場面へと進んでいった。
「……で、この後、ここに映っている様に水果は気絶します。」
追及を諦めた海月は再び説明へ戻った。
画面の中ではその言葉通り、一本歯の下駄がぐらぐら揺れたかと思うと、支えを失ったように揺れ、ニナは突然硬直したかと思うと板の様に真っ直ぐ後ろへ倒れた。
「あー、そんなわけで御覧の通り、メジャーから送り込まれた謎の力によって動きを封じられた怪物は、
鎮めの呪文で除霊しました。
画角が外れることも無くフィルムに怨霊も焼き付いているので再降の可能性は無い……と、思われます。」
海月はいつになく言葉を濁し、続けた。
「しかし納得いかない点がいくつか。
恐らく、これは本来依頼されたカワゴエ少年の怨霊ではない、と考えます。」
「……せやな。」
珊瑚は着物の帯から扇子を取り出し、畳んだまま口元に当てて答えた。
これは深刻な場面に陥った際、熟考する時にしばしば見受けられる癖である。




