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『うつせみ残夢ー外来種の姫君ー』  作者: 音羽[HAITA Press.]
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07



「了解でーす」


 赤間は仕事でもプライベートでもPCの前に座りっきりのせいで、風船の様に膨れた体を重たげに揺らしながら、4つのモニターの前に置かれたキーボードを小忙し気にそれぞれ連打し始めた。

キャスター付きの椅子は今にも大破してしまいそうに軋み、悲鳴を上げている。


「どんな感じ?」昔からの顔馴染みで、仕事仲間としてすっかり打ち解けている海月はソファから立ち上がり作業中の赤間へ近づくとモニターを覗き込んだ。

そこには、遠くで蛍が巨大な蜘蛛の怪物と格闘しているシーンがスローモーションで映っている。

「そぉね、ちょっと怨念が強すぎて取り込みに若干時間かかっちゃってるんだわー。

海月クン、遅く来て正解だったかも。」

後半、やや声を潜めながら、少し離れた場所で本を読んでいる珊瑚に聞こえないよう気を遣って、赤間は呟いた。

「だよなー、俺もそう思ってた。あ、コレ、いつものブツね。」

海月は訳知り顔でほくそ笑むと、赤間の好物であるハッピーターンを袋ごと差し入れる。

「またまたぁ、絶対寝坊したんでしょー

………それより、新入りチャン。初めてのタイプの子じゃない?」

満面の笑みでそれを受け取った赤間は早速菓子を頬張り出し、咀嚼しながらチラリとモニター越しにその姿を確認する。

当の本人は子供の様に声を上げて笑いながら何やら河津と会話していた。

「ああ。只でさえ強力インパクト集団な"七五三ルーム"って定評なのに、また頓珍漢な輩を引っ張ってきたよなー。」

まるで他人事のように海月が欠伸をしながら言い放つと、珊瑚がそれを聞き付けて海月の顔面目掛けて飴玉を投げ飛ばした。

「あんたも十分トンチキやろ。」

「うっせー七五三。」

海月は額にクリティカルヒットして、デスクに転がった黒飴を口に入れながら言い返した。

「七五三?って、なぁに?」

すると、隣でそれを見ていたニナが首を傾げて河津に尋ねる。

「あー、いや、それは。」

「俺がつけたババアのあだ名。」

もごもご口籠る河津に被せるように、海月は親指で珊瑚を指して言った。

「余計なことは覚えんでええしなー?」

珊瑚がそれに対し青筋を浮かべながら、ニナに笑顔を向ける。

「はーい、じゃあ取り込み作業終わりましたんで、ひとしきり今から流しまーす。」

 白熱しそうな雰囲気を打ち切るように、赤間が緩い掛け声をかけた。

海月はパイプ椅子を壁際から引っ張ってきて、珊瑚たちとは離れたまま、壁にかかる巨大スクリーンに顔を向けた。


月光に照らされた祠がアップになる。

誰かが手入れをしているのか、周囲には雑草も生えておらず、弁当を食べたりするのに丁度いい開けた場所になっていた。


「――――時間は深夜一時、資料にあるA山の寺院から少し離れた登山道を登った山頂付近です。

蛍の数珠が反応したので、ここまで来ました。」


 原則として怨霊を取り込むのが可能なのはフィルムカメラだけなので、音声は入らない。

そのため、撮った映像を見ながらこうして編集する際に状況を逐一説明するのも海月の役割の一つとなっている。

今回は珊瑚曰く"ズブの素人"ニナへも解りやすい言葉を選び、普段なら省略している事象も解説しなければならないのか、と海月は内心で溜息を吐いた。


 画面にはまだ脚の生えている蛍が祠に拝んでから、数珠を片手に何かを確認するように動き周り、胸ポケットから鏡を取り出して指で印を形作る様子が映し出される。


「――えー、資料によるところの失踪した少年、カワゴエ トシユキの霊を呼び出す為に蛍は半影の呪文を唱え、俺が確認しました。」


海月のその言葉と共に、カメラが360度ぐるりと回って周囲を捉えた映像が流れた。


「その際、蜘蛛に類似した姿の巨大な生霊が見えたので蛍へインカムで報告し、6時の方向に出現した事を教えました。」


それを受けて、珊瑚が右手を上げ、赤間に映像を止めるように促す。

「それ、ちゃんと録音されてるやんな?」

尋ねられた海月は頷いた。

除霊時に不正や誤魔化しが無いよう、撮影者と被写体(競霊師)にはICレコーダーの装着が義務付けられている。

精密な状況音は録れないが、個人の発言は記録にのこるというわけだ。


「う、わ……うそ…」


 そして再会された映像は問題の場面に差し掛かる。

資料とは大きく異なる敵の動向を探るために、限定解除を渋りながら戦っていた蛍が、あわや相手の毒牙に掛かってしまった瞬間だった。


ぎりぎりとゆっくり肉に食い込む爪が、遠目ながらも海月の技術により鮮明に撮影されている。


「ちょ、ボク、蛍チャンは今日怪我で来れないって聞いたんだけど……こんな……」


こういった残酷な場面は仕事柄何度も目の当たりにしている筈なのに、小心者の赤間は見るに堪えない、といった表情で目を伏せながら小声で呟いた。


しかし蛍はもっと非情な状況に陥るのだ。


グロテスクな口を大きく開けた怪物が、蛍の足先を啜りながら食べていく。


「ヤバいっすね…」


河津が思わず発した一言が部屋に響いた。


「見てれば解るように、出現した時はいやに鈍かったコイツの動きは急に迅速なって蛍を捕まえた。

蛍のレコーダーが壊れてなければ多分、限定解除の呪文を唱えようとしてるのが解ると思うけど一瞬すぎて間に合わなかった。」


その後、海月がカメラを巌に置いて参戦する姿が画面に映るが、奮闘しているのは見受けられるものの太刀打ちできない相手であることは珊瑚にも河津にも一目瞭然だった。


「あんた、競霊のセンス皆無やもんなあ…」


珊瑚が頭を抱えて唸る。



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